欲望という名のゲーム?43
「お断りいたします。
テープは毎晩一本づつ順序通りにお見せせよと、雅則様から指示をいただいています。
それを無視するわけにはまいりません」
「ケチなこと言ってないで見せろ!」
明彦が立ち上がって叫んだ。
それに続いて、深雪と友子も騒ぎ出す。
しかし、鹿島は頑として断り続ける。
やがて、見せろ、見せないの押し問答になってしまった。
どちらも後には引かず、だんだんと声を荒立てる。
牧野夫妻までが、何事かと出て来た。
あの大人しい喜久雄までが、大声で鹿島を罵っている。
二百八十億円の魔力が人の理性を失わせ、入れ代わりに欲という名の怪物が、狂った叫び声を上げている。
もはや事態は、収拾のつかない状態になってしまった。
チャリーン!
突然、金属的な音が響いた。
一同はピタリと言葉を止めて、音のした方を見た。
孝子だった。
彼女が高い位置から皿の上に、スプーンを落とした音だった。
「ああ、美味しかった」
澄ました顔でそう言い、ナプキンで口を拭きながら、
「ところで鹿島さん。
雅則兄さんはゲームやワインも好きだったけど、絵画にも興味があったんじゃないかしら?」
と、言った。
「何を訳の分からない事を…」
明彦がそう言うのを、鹿島が割って入った。
困り果てていた鹿島は、孝子の言い出した事に飛び付いた。
「おっしゃる通りです。
雅則様は絵画にも大変関心を持っておられました」
「だと思ったわ。
だって、屋敷の至る所に絵が飾ってあるんだもん。
この食堂のあの絵は、本物のユトリロよ。
こっちの絵は、いかにも兄さんらしいわ。
デュシャンの『チェスをする人たちの肖像』。
ただしこの『チェスをする人たちの肖像』は模写ね。
だって本物はフィラデルフィア美術館にあるんだから。
それにね、図書室にも絵の本がたくさんあったわ」
「今、それが重要なのか?」
すでに落ち着きを取り戻していた喜久雄が聞いた。
「私の単なる思いつきだから、重要かどうかは分からないけど、あの三毛猫のパブロちゃんの名前ね、あれもしかしたら『パブロ・ルイス・ピカソ』から取ったのかもしれないって、そう思って…」
「あの画家のピカソか?」
明彦の問いに、孝子がうなずく。
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