マイホーム 1
どこまでも続く白い砂浜を見下ろす丘に
1軒の家がある。
会社役員の西森義之は
妻の小夜子と中学生の息子・翼、小学生の娘・未来とともに
この家に引っ越した。
有名なリゾート地でもあるこの場所で
家を構えて暮らすのは西森一家の夢であった。
その中でもこの家は
白い外壁と赤い屋根を構え
広々として日当たりもよく
何より眼下にはどこまでも続く砂浜と
青く美しい海を臨む
まさに最高の物件であった。
これほどの物件なのだから
決して安くはないだろうと思っていたが
不動産屋から提示された金額は
頭金込みで100万円。
しかも敷金・礼金が無料。
一家は迷うことなくこの物件に決めた。
しかし
不動産屋はなぜか浮かない顔をした。
「この物件は…絶対にお勧めできません。」
「…なぜですか?こんないい場所にこんな広々とした家があって、お手頃な価格…ここを選ばない手はないでしょう。」
義之は豪快に笑った。
「お客様御一家のような幸せそうな方々に、あのような物件に住んでいただくのは…」
不動産屋はかすかに震えながら話した。
義之は訝しげに聞いていたが、やがて口を開いた。
「分かった!ワケアリ物件なんでしょう、今流行りの。大丈夫ですよ。多少欠陥があっても、私達一家は我慢しますよ。な?」
「ええ。もちろん。」
「ここに住みたい!海もすぐ近くだし」
「私も!泳ぎたいもん!」
小夜子も翼も未来もにこにこと頷く。
「いえ、そうではないのです。ただ…」
「何ですか?…あ、じゃあ幽霊が出るとか?」
「幽霊ではないんです。しかし…あの家に住まわれた方々は…」
「あーもう!じれったい!とにかく!何があろうとも我々は大丈夫ですから!この物件に決めます!」
「…本当に、よろしいんですね?」
不動産屋は険しい表情で問い掛けた。
義之は頷いた。
「では…一つだけ約束してください。」
「なんでしょう?」
「決してこの家の広さを褒めないでください。それが条件です。」
義之は一瞬唖然としたが、すぐに笑った。
「そんなことですか!お安い御用ですよ!約束しましょう。」
「では…こちらにサインを…」
一家は希望に満ちた表情で手続きを始めた。
この時西森一家は、この物件の恐ろしさを知らなかった…
続く
1軒の家がある。
会社役員の西森義之は
妻の小夜子と中学生の息子・翼、小学生の娘・未来とともに
この家に引っ越した。
有名なリゾート地でもあるこの場所で
家を構えて暮らすのは西森一家の夢であった。
その中でもこの家は
白い外壁と赤い屋根を構え
広々として日当たりもよく
何より眼下にはどこまでも続く砂浜と
青く美しい海を臨む
まさに最高の物件であった。
これほどの物件なのだから
決して安くはないだろうと思っていたが
不動産屋から提示された金額は
頭金込みで100万円。
しかも敷金・礼金が無料。
一家は迷うことなくこの物件に決めた。
しかし
不動産屋はなぜか浮かない顔をした。
「この物件は…絶対にお勧めできません。」
「…なぜですか?こんないい場所にこんな広々とした家があって、お手頃な価格…ここを選ばない手はないでしょう。」
義之は豪快に笑った。
「お客様御一家のような幸せそうな方々に、あのような物件に住んでいただくのは…」
不動産屋はかすかに震えながら話した。
義之は訝しげに聞いていたが、やがて口を開いた。
「分かった!ワケアリ物件なんでしょう、今流行りの。大丈夫ですよ。多少欠陥があっても、私達一家は我慢しますよ。な?」
「ええ。もちろん。」
「ここに住みたい!海もすぐ近くだし」
「私も!泳ぎたいもん!」
小夜子も翼も未来もにこにこと頷く。
「いえ、そうではないのです。ただ…」
「何ですか?…あ、じゃあ幽霊が出るとか?」
「幽霊ではないんです。しかし…あの家に住まわれた方々は…」
「あーもう!じれったい!とにかく!何があろうとも我々は大丈夫ですから!この物件に決めます!」
「…本当に、よろしいんですね?」
不動産屋は険しい表情で問い掛けた。
義之は頷いた。
「では…一つだけ約束してください。」
「なんでしょう?」
「決してこの家の広さを褒めないでください。それが条件です。」
義之は一瞬唖然としたが、すぐに笑った。
「そんなことですか!お安い御用ですよ!約束しましょう。」
「では…こちらにサインを…」
一家は希望に満ちた表情で手続きを始めた。
この時西森一家は、この物件の恐ろしさを知らなかった…
続く
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