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ひきずり 後編

[814]  美羽  2010-07-08投稿
開けたくない。
けど、僕の指は襖に掛けられていた。

ゆっくり、和室の物置部屋を開けていく。

開けた途端、ぬるま湯が僕の裸足の足を浸した。

黄ばんだタイル張りの浴室があった。
和室のはずのこの部屋はあるはずのない風呂場になっていた。

そして。

浴室の小さな浴槽に、女が立っていた。
全身ずぶ濡れていて、もつれた髪が乳房を隠している青黒い全裸の身体から、腐った匂いが漂う。
身体中に切り傷があり、真っ黒い血液が流れている。

逃げなくては。

僕が一歩、後退るその瞬間女は俯いていた顔をあげた
見開かれた目の中心は黄色く濁り、白目からぬるりとした体液が涙のように溢れた。
鼻は腐り、陥没している。
唇の肉が押し広げられ、僕に呟いた。

「ヒキ、ずられ…ちゃったの」

ひきずら…なんだって?
人間の声じゃない、低くくぐもった声で女は笑った。
僕はその声で呪縛から逃れアパートから飛び出した。


冷たい汗をかき、アパートを振り返った。

意味不明な言葉を振り捨てるように僕は走った。


アパートに帰らなくて済む方法を、探さなくては…。

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