ひきずり 後編
開けたくない。
けど、僕の指は襖に掛けられていた。
ゆっくり、和室の物置部屋を開けていく。
開けた途端、ぬるま湯が僕の裸足の足を浸した。
黄ばんだタイル張りの浴室があった。
和室のはずのこの部屋はあるはずのない風呂場になっていた。
そして。
浴室の小さな浴槽に、女が立っていた。
全身ずぶ濡れていて、もつれた髪が乳房を隠している青黒い全裸の身体から、腐った匂いが漂う。
身体中に切り傷があり、真っ黒い血液が流れている。
逃げなくては。
僕が一歩、後退るその瞬間女は俯いていた顔をあげた
見開かれた目の中心は黄色く濁り、白目からぬるりとした体液が涙のように溢れた。
鼻は腐り、陥没している。
唇の肉が押し広げられ、僕に呟いた。
「ヒキ、ずられ…ちゃったの」
ひきずら…なんだって?
人間の声じゃない、低くくぐもった声で女は笑った。
僕はその声で呪縛から逃れアパートから飛び出した。
冷たい汗をかき、アパートを振り返った。
意味不明な言葉を振り捨てるように僕は走った。
アパートに帰らなくて済む方法を、探さなくては…。
けど、僕の指は襖に掛けられていた。
ゆっくり、和室の物置部屋を開けていく。
開けた途端、ぬるま湯が僕の裸足の足を浸した。
黄ばんだタイル張りの浴室があった。
和室のはずのこの部屋はあるはずのない風呂場になっていた。
そして。
浴室の小さな浴槽に、女が立っていた。
全身ずぶ濡れていて、もつれた髪が乳房を隠している青黒い全裸の身体から、腐った匂いが漂う。
身体中に切り傷があり、真っ黒い血液が流れている。
逃げなくては。
僕が一歩、後退るその瞬間女は俯いていた顔をあげた
見開かれた目の中心は黄色く濁り、白目からぬるりとした体液が涙のように溢れた。
鼻は腐り、陥没している。
唇の肉が押し広げられ、僕に呟いた。
「ヒキ、ずられ…ちゃったの」
ひきずら…なんだって?
人間の声じゃない、低くくぐもった声で女は笑った。
僕はその声で呪縛から逃れアパートから飛び出した。
冷たい汗をかき、アパートを振り返った。
意味不明な言葉を振り捨てるように僕は走った。
アパートに帰らなくて済む方法を、探さなくては…。
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