欲望という名のゲーム?48
孝子が落ち込み気味だったので、鹿島が話しを変える。
「そうだ、さっきお話に出た『ビトゥイン・チェス』ですか?
あれをひとつやってみませんか?」
「あれを?
いいわよ。
じゃ、この本を衝立にして、経験者の私が黒で、あなたが白ね」
「白という事は、私が先手というわけですね」
「雅則兄さんが死んじゃったから、このゲームを知っているのは、世界中で私とあなたの二人だけ。
つまりこれは『ビトゥイン・チェス』の世界選手権という事になるわね」
「ははは、孝子様は面白い発想をなさいますね。
はい、並べ終わりました。
…では、まずこのルークをここへ」
「私はナイトをここ」
「ビショップをここに」
「クイーンを、そのビショップの隣に」
「えーと、そのクイーンを挟める駒がないか…
じゃ、これをここへ」
鹿島が長考しながら打つのに対し、孝子は瞬時に次の手を打つ。
それを何度か繰り返した。
「よし!
このルークをここだ。
これで孝子様のナイトとクイーンを同時に取った」
鹿島は盤上の黒のナイトとクイーンを摘まみ取った。
「そして、私は鹿島さんのキングを取る」
孝子はそう言って、もうひとつのナイトを動かした。
「なるほど。
これはやられましたな。
もう一回どうですか?」
「何度でも」
二人は再びゲームを始める。
しばらく打ち合ったあと、孝子が言った。
「このルークをあなたのキングの横に…」
「おっ、これは危ない。
ではキングが逃げるとしますか…
あっ、キングの逃げ道がない。
…ゲームセットですね」
「このゲームの難しい所は、ほかの駒に比べてキングの動きが鈍いことなの。
だから、相手の駒を取るよりも、常にキングの逃げ道に気を配っておかなくてはいけない事よ。
一番大事なのは、キングの逃げ道よ。
どう、もう一回やる?」
「やりますとも!
世界選手権に恥じない名勝負を残さなくては」
そう言って駒を並べながら、鹿島が孝子に聞いた。
「ところで少し気になることがあったのですが…
さっきこちらに来る時に見たのですが、喜久雄様がご自分の部屋の前に、ずっと立っていらっしゃるんです。
あれは何なのでしょうか?」
「きっと、みんなを見張ってるのね。
夜中にこっそり抜け出して、宝探しをする者がいないかを…」
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