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代償 5

[723]  デフレーター  2010-07-16投稿
「先生、篤史が昨日清香を泣かせたんです。」
「なのに謝らないで言い訳ばっかり。」
「見てください。清香、すごく辛そうでしょう?」
事実を誤認したクラスメート達が口々に話し始める。
杉本は黙って聞いていたが、やがて篤史に向かって口を開いた。
「篤史、本当か?」
「違うんです。俺は、受験で悩んでた清香を励まそうと思って…そしたら、清香が泣いちゃって…」
「清香、どうなんだ?」
杉本は清香に問い掛けたが、やはり返事はなかった。
「…」
杉本は考え込んだ末、篤史に言った。
「どういう事情があったにせよ、泣かせるのはよくないな。」
「え…?」
「はい、決定ー!悪いのは、篤史。」
「何でだよ…」
篤史は拳を震わせた。
「泣かせたんだから、当然じゃん。」
「ほら早く謝れよ!」
「謝ることも出来ないの?」
「終わってんな、本当に…」
「…うるせぇんだよ。」
「は?」
篤史はついに堪え切れなくなり、声を荒げた。
「うるせぇって言ってんだよ!どいつもこいつも寄ってたかってボロクソ言いやがって!」
「悪いのはお前だろ?」
「何もしらねぇくせにワーワー言ってんじゃねぇよ!俺の話しなんて聞く耳も持たないし…何だお前ら!」
篤史の目に悔し涙が浮かぶ。
「よく分かったよ!出てけばいいんだろ!」
「…ああ。2度と来るな…」
「ああ、こねーよ!…あーやってらんねぇ…」
こうして篤史は教室を飛び出し、以後2度と来ることはなかった。

その後、落ち着いた清香が事情を話し、篤史の不当な屈辱は晴れたものの、杉本組はこの日を境にどこか気まずい空気を帯びてしまった。
自分達のせいで篤史を傷つけたこと。まとまりのあった杉本組を、自分達が壊してしまったこと。
何度か篤史と連絡を取ろうとするが、アドレスも電話番号も変えられていた。
自宅に電話しても、篤史本人が接触を拒否していた。
杉本組は、ピースが一つ欠けたパズルのような状態だった。
杉本は、教師として生徒を信じてやれなかったことを悔やんでいた。
一晃は学級委員として責任を感じ、恵梨は誤解を招き、一連の騒動を招いた罪悪感に苛まれ、清香はすぐに本当のことを言わなかった事を後悔していた。
その他のクラスメートも、篤史に申し訳ないという思いを抱えていた。


続く

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