子供のセカイ。186
ジーナは抜き途中の剣の刃で、かろうじてそれを受け止める。ギィン、と耳障りな音が生じると共に、右腕に負荷がかかった。剣にぶつかったものが鋭い獣の爪である事に気づいて、ジーナは目を見開いた。
「ぐうっ!」
ジーナは力任せに刀身をすべて抜き放つと、剣を持った右腕を横なぎになぎ払った。ふさふさの毛で覆われた黒い獣は、ぎゃう、というような声を上げて横の壁に叩きつけられ、ズルズルと地に落ちる。駆け寄ったジーナは、間髪入れずに刃の切っ先を獣の脳天に突き立てた。
それは黒豹のような動物だった。しかし豹にしては随分小柄で、だらりと四肢を投げ出し、犬のように寝そべっている。頭部の傷口から出血することもなく、急にその姿が希薄になると、ゆらり、と揺らめき、煙のように消えてしまった。
「……ハアッ…何だ今のは……!」
ジーナが額の冷や汗を拭った時、視界の隅で、再びボールを投げつけた壁の表面が、ごぽり、と液体のように波打った。
「っ!」
ジーナが向き合うよりもずっと速く、再び壁から分離した青い塊が何かの形を成し、ジーナの脇を駆け抜けていった。
(しまった…!)
「王子!」
思わず叫んで振り返った時、王子がまさにその塊と対峙し、剣を振るっている所だった。
それは等身大の人形の少女だった。可愛らしい黄色のワンピースから突き出した手足は木でできており、髪は太い茶色の毛糸、目はボタン、鼻と口は赤い刺繍糸で縫われている。人形は踊るようなステップで王子に殴りかかるが、王子の剣が袈裟がけに人形の胸から腹にかけてを切り付けると、がくがくと震えて、先程の黒い獣のように消えてしまった。
そして再び壁が、ぼこぼこ、と数十の丸い塊を作り出す。ジーナは床に刺さったままの剣を引き抜くと、改めて青い壁と向き合い、そして気づいた。
さっきより青い壁の位置が遠くなっている。――否、分離した塊の分だけ、壁の厚みが減ったのだ。
(これが『道を拓き、前へ進む』ということか…!)
ジーナはぶるりと武者震いすると、白い歯をむき出して笑った。
結局ここがどんな場所なのかはわからない。ただ、掘ってはいけない場所を掘り進めている、というのだけはわかる。ボールは異常な力で空間をねじ曲げ、強制的に穴を空ける役目を担っているのだろう。そしてその矛盾から奇妙なモノが生み出されるのだと、そうジーナは解釈した。
「ぐうっ!」
ジーナは力任せに刀身をすべて抜き放つと、剣を持った右腕を横なぎになぎ払った。ふさふさの毛で覆われた黒い獣は、ぎゃう、というような声を上げて横の壁に叩きつけられ、ズルズルと地に落ちる。駆け寄ったジーナは、間髪入れずに刃の切っ先を獣の脳天に突き立てた。
それは黒豹のような動物だった。しかし豹にしては随分小柄で、だらりと四肢を投げ出し、犬のように寝そべっている。頭部の傷口から出血することもなく、急にその姿が希薄になると、ゆらり、と揺らめき、煙のように消えてしまった。
「……ハアッ…何だ今のは……!」
ジーナが額の冷や汗を拭った時、視界の隅で、再びボールを投げつけた壁の表面が、ごぽり、と液体のように波打った。
「っ!」
ジーナが向き合うよりもずっと速く、再び壁から分離した青い塊が何かの形を成し、ジーナの脇を駆け抜けていった。
(しまった…!)
「王子!」
思わず叫んで振り返った時、王子がまさにその塊と対峙し、剣を振るっている所だった。
それは等身大の人形の少女だった。可愛らしい黄色のワンピースから突き出した手足は木でできており、髪は太い茶色の毛糸、目はボタン、鼻と口は赤い刺繍糸で縫われている。人形は踊るようなステップで王子に殴りかかるが、王子の剣が袈裟がけに人形の胸から腹にかけてを切り付けると、がくがくと震えて、先程の黒い獣のように消えてしまった。
そして再び壁が、ぼこぼこ、と数十の丸い塊を作り出す。ジーナは床に刺さったままの剣を引き抜くと、改めて青い壁と向き合い、そして気づいた。
さっきより青い壁の位置が遠くなっている。――否、分離した塊の分だけ、壁の厚みが減ったのだ。
(これが『道を拓き、前へ進む』ということか…!)
ジーナはぶるりと武者震いすると、白い歯をむき出して笑った。
結局ここがどんな場所なのかはわからない。ただ、掘ってはいけない場所を掘り進めている、というのだけはわかる。ボールは異常な力で空間をねじ曲げ、強制的に穴を空ける役目を担っているのだろう。そしてその矛盾から奇妙なモノが生み出されるのだと、そうジーナは解釈した。
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