「お互い収穫はあったのかよ？」
剛夫は、哲彦と義人の動向が気になっていた。
「まあ、そこそこかな…」
哲彦の歯切れの悪さに剛夫は、何かあったなと感じた。
「あんまり良さそうじゃないね。ところで義は?」
「まあ、友達として一歩前進したってとこかな…」
「友達〜？それって、恋愛的なことには、つながってないってとこだろ？」
「そこまでは言ってないよ。残念ながらね…。情けないけどね」
「お前…まだ引きずってんだろ。彼女のこと…。」
「いや…」
短い返事で否定はしてみたものの、義人には心のどこかで、怪しい団体へと、去っていた彼女が引っかかっていた。
恋愛をすることで、また不安がよぎってしまうことを。
「情けねえな…吹っ切るために、こうやって、定期的な旅行を始めたんだろ？傷つくことを恐れすぎだよ！線を引きすぎなんだよ。もう、いいんじゃねえか？そうやって、恋愛について逃げるのは」
哲彦の説教は、もっともだった。
だが、その表情の曇り方に、義人も哲彦も、何かあったなと感じた。
「ごめんな…吹っ切ったつもりが、全くだったよ。もっと前向きにいくよ。…なあ、哲ちゃんなんかあったのか？」
「…」
哲彦は、しばらく黙っていた。
「彼女な…好きな人がいるってよ。凄く気になってる人がな…。そのために、自分の環境を変えることも辞さないってさ…」
「その言い方…。まさか、気持ちを伝えたか？」
「ああ…気持ちいいくらいに振られたよ。まあ、すっきりしたけどね。やっぱり、自分を大事に思ってくれる人を大切にしなきゃな」
「そうか…。哲ちゃんは、過去の傷は、吹っ切ったんだな。そう思えるようになったってことは、身近な人？…それとも…」
「それとも？それともって?」
義人は、言葉を濁したが、それが、下原文子と麻由のことを言っていることを、哲彦は察した。
「うん…。まあ、この人ってのは、あるよ。」
「そうか…。でも、うらやましいよ。と同時に嬉しいよ。旅行がきっかけで、前進出来てるなら」
そんな義人に、かすみのことを言い出すことが、哲彦には出来ずにいた。

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