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欲望という名のゲーム?77

[437]  矢口 沙緒  2010-07-25投稿



深雪は図書室で孝子といる間に、ある事に気がついた。
迷路とは、結局三つの要素で成り立っているのではないか?
入り口と出口、そして行き止まりだ。
では、このスマイル君とやらは、それのどれに当たるのか?
まず出口だが、これは違うだろう。
雅則兄さんは、これが正しい入り口へ案内すると言っていた。
では、入り口なのか?
しかし、自分が罠に落ちた入り口はトランプだった。
明彦の奴が、庭の木の根元に穴を掘ったきっかけも、どうやらスマイル君ではなさそうだ。
という事は、入り口も違うのではないか?
残るは行き止まりだ。
そうだ。
このスマイル君とやらが、全部迷路の行き止まりを示すものだとしたらどうだろう?
それなら、一つ一つの顔に、違いや個性がなくても構わない。
行き止まりに個性なんかないからだ。
だがこの場合、文字通りの行き止まりとはちょっと違うような気がする。
では、どんな形の行き止まりなのか?
確か雅則兄さんは、『思考の迷路』と言う言葉を使った。
となれば、これは『思考の行き止まり』という事だろうか?
深雪はベッドから立ち上がり、リビングルームに出た。
ホームバーでブランデーをグラスに注ぐと、一気に煽った。
そしてカウンターの椅子に座り、煙草をくわえた。
『思考の行き止まり』という言葉は、深雪にとってはあまりにも抽象的すぎた。
もっと具体的な形にしないと意味がない。
その一つの手掛かりとして、あの笑い顔がある。
なぜ笑い顔なのか?
真顔や泣き顔では、どうしていけないのか?
単なる愛想笑いとは思えない。
彼女はドアに掛かっているスマイル君を見詰めた。
この人のよさそうな笑顔が、何かを訴えかけているのか?
何かを教えようとしているのか?
あるいは、何かを語ろうとしているのか?
深雪は仕事柄、いろいろな笑顔を見てきている。
それらを見分ける目も養ってきている。
そして、彼女自身もまた、いつのまにか笑顔を使い分けるようになっていた。
しかし、このドアに掛かっている笑顔は、不思議な笑顔だった。
とても優しく、暖かいものを感じる。
優しく何かを語りかけているのだ。
指の間に挟んだ煙草が、いつの間にか灰の棒と化していた。
深雪はそれを灰皿に捨てる。

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