幸運の女神-第二部 6
「よおっ! 康介やん。
その可愛いおネエちゃん、どこで拉致ったん?」
「アホぬかせ!ド突くでホンマ! ったく、仁も変わらんわっ」
小坂雛と連れ立って歩いていた石島康介に、ロクでもない挨拶をよこしてきたのはパンクバンド〈クワトロ〉のドラマー、中井仁であった。
「なァ、噂で聞ィたんやけど、お前らプロデューサーの霧島と何ぞコネあるんやて?」
「何や、その霧島っちゅうんは。 有名なんか?」
「あ、ヒナ知ってるーっ。
確かハートビーツのプロデュースやってた人だよね〜っ」
「ホンマかいな!」
ロック界に彗星のごとく現れ、バンドブームの火付け役となった《ハートビーツ》は日本のロックにまるで疎い康介でもさすがに知っている。
デビュー以来常に数十万枚のCDセールスを記録し続け、人気絶頂のさなか突如、解散。
半ば伝説になりつつあるバンドである。
「あのファイナルライブの挨拶は語りぐさになっとるで」
「ふふっ♪ 『俺、明日から大工やっから解散っ!』だったよねーっ?」
「アイツら、仁たちと変わらん位アホやったな」
「ほっとけコラッ!」
「……それにしてもなァ」
その『霧島』とか言う人物との繋がり(つながり)に思い当たるふしが全く無い康介であった。
彼は、暇な時にでも峠昭彦に尋ねる事に決め、雛と仁を伴いゲーセンに向かった。
康介にとり、遊ぶのは命から三番目に重大な事なのである。
…ちなみに、命の次に大切なのは彼女の小坂雛。
「あ、恵利花さァ」
「なぁに? 超カッコイイお兄様〜、あははは!」
「お前みたいなのを拾うバカはさ、… 俺しかいねーに決まってるよな」
「…ちょっとムカつく〜っ」
「お、おい!やめろって、その、…スリムビューティなお姫さま」
俺、倉沢諒司は、品川恵利花の左ストレートをかわしながら、自分の白々しいフォローについ吹き出してしまった。
(時期が来るまで、話さずに置くか……)
じゃれついてくるエリカの何気ない仕草が、無性に愛おしく思える。
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