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欲望という名のゲーム?98

[543]  矢口 沙緒  2010-08-11投稿



「実は俺もあそこには行ってみた。
というのも、ちょっと気になる事があってな。
ほら、雅則が初日のテープをよく見ろと言っていただろ。
それで何回か再生してるうちに、ある事に気が付いた。
雅則が猫を抱き上げて、これがヒントだと言った時、あいつは猫を抱いている手に、ワインを満たしたワイングラスを持っていたんだ。
俺は猫と同時にワインもヒントだとほのめかしているように思えた」
「あっ、そう言えば確かに持っていた」
喜久雄が思い出した。
「なんか、すごく気になるわね、そのワインって。
ねぇ、みんなで一度地下に行ってみましょうよ」
友子の提案で、五人は同時に立ち上がった。

地下のワイン貯蔵庫には、相変わらず少し湿った冷たい風が緩やかに流れていた。
深雪が先頭に立ち、無数のワインが眠る棚の間を歩いた。
「ここよ。
ここに猫のラベルのワインがたくさん並んでるの」
そう言って、その棚の下段に並んでいるシュバルツェ・カッツェを指差す。
「なんだ、おまえもここに来たのか?」
「あら、兄さんも来たの?」
「ああ、だがすぐ諦めた。
このラベルの猫は、全部『黒猫』だ」
「そうなのよ。
それであたしもやめたの。
どうせ行き止まりだろうと思って」
明彦と深雪の話を聞きながら、友子はそのワインを一本手に取った。
そして、それをいろいろな角度から見ながら言った。
「ねぇ、深雪さん。
この黒猫のラベルのワインを全部調べたの?」
「ええ、一応調べたわ。
でも何も発見出来なかったわ」
「そう、何も見付けられなかったの。
じゃ、望みがあるわ。
ここはまだ行き止まりじゃないわよ」
「なんで?
何もなかったのに?」
「そうよ。
だってさ、何もないって事は、雅則兄さんのメッセージもなかったんでしょ。
今までのパターンからいけば、必ずおしまいの所に雅則兄さんのメッセージがあったもの。
だからここは、少なくとも行き止まりではないわ」
明彦と深雪は同時にアッと声を上げた。
確かにそうだ。
ここには行き止まりのメッセージがない。
「友子姉さんの言う事は、正しいと思うわ」
孝子が感心して言った。
「この黒猫のワインは、まだ道の途中なのよ、きっと。
先がどうなっているかは分からないけど、でもここで諦めるのは惜しい気がする」


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