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拝啓 あなたへ 【No.4】

[186]  受験生  2010-08-12投稿
信じられなかった。
そういえば最近、生理が止まっていた。
けれど、それは体調が悪いからだと思っていた。
する時は、ちゃんとゴムをつけさせていたし、そうしなかったのは安全日だけだった。
正直、誰の子か分からない。
親は何も言わなかった。
呆れて何も言えなかったんだと思う。
ただ、溜め息をついていた。
その時点では、『堕ろす』という選択肢しかなかった。
両親にも、私にも。

産婦人科のある病院は、あの店の近くだった。
母と病院へ行く途中、私は急に彼に会いたくなった。
母に、飲み物を買ってくると言ってあの店に入った。
珍しく、彼は私の姿にいち早く気がついた。
「どうして今日は…?」
と尋ねると、
「昨日いなかったから、もう来ないかと思ってた。」
と、ちょっとズレた返答。
「昨日はちょっと…体調が悪くて。」
嘘じゃない。少し、はぐらかしたけど。
「そう。大丈夫?」
「うん、一応ね。」
「気をつけなよ。身体には。」
彼の優しい言葉に、本当の事を言えない私は心が痛んだ。
「じゃあ…私、行かなきゃ。バイバイ。」
そう告げると、彼は黙って手を振った。

店を後にしようとした時、ふと後ろを振り返ると彼はまた外を見ていた。"
言わなきゃ"と思った。
このまま帰れば、もう彼には会えなくなる気がした。
気がつくと私は、彼の前まで戻っていた。
「どうしたの?」
彼は不思議そうにこちらを見た。

「…本当はね、……昨日、病院に行ってたんだ。そしたら妊娠してるって言われて…。誰との子かも分からないのに…。私、もうどうしたらいいか分かんなくて。」

なぜか私は泣きじゃくっていた。
周りの視線を感じたが、気にならなかった。
彼もまた、気にしていないようだった。

「良かったじゃないか。」

彼は時々、突拍子もない事を言う。
本当に私の話を聞いていたのだろうか。

「なんで『良かった』なのよ。…これから堕ろしにいくんだよ、私。」

「ダメだよ。そんなの。」

「なんで?私の問題じゃん。」

「君の子どもの問題でもあるだろ。なんなら訊いてごらん。私のために生まれるの諦めてくれますかって。」

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