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拝啓 あなたへ 【No.5】

[169]  受験生  2010-08-12投稿

「そんな事言ったって…。」

「こんなに素晴らしい世界を…青い空や広い宇宙、暖かい日差し、小鳥の囀り(さえずり)や皆の笑い声…そういうの知ることもできずに死んでいくなんて、自分の生が認められることなく終わってしまうなんて、そんなの…悲し過ぎる。」

彼の言葉には重みがあった。
何か、言葉の表面ではなく、奥深くに含まれた哀しみの響きを感じた。

私の心に、我が子に対する憐れみが生まれた。
それはいつしか、愛情へと変わっていった。

 私はこのことを母に伝えた。
母は猛反対をした。
そして尋ねた。
どうして急に思いが変わったのか、と。
私は少し躊躇った(ためらった)が、素直に話すことにした。
話しながら、母の顔がひきつっていくのに気がついた。
話を聞き終わるや否や、母は血相を変えて店に入った。
大きく成長した雷雲を前に、私は為す術がなかった。

「他人(ひと)の事情に口を出さないで!」

一歩遅れて私が店に入ると、もう雷は落ちていた。
母は、私の話から、彼という人物を見つけ出していた。
被害者多数。
黙らせろとでも言うように、近くにいた客が一斉にこちらを見た。
あれはもう無理だ。
ああなったら止めようがない。

「どなた…ですか?」
かなり察しの悪い彼。

「もう…やめてってば。彼は関係ないでしょ。」
と私が母を止めに入ったところで、やっと気付いたようだった。

「あなたは黙ってなさい。」
母は私を一蹴。

「あなた、子ども育てるのがどれだけ大変か分かってるの?」
雷が、海に浮かぶ小さな小舟を襲う。

「分かりません。」

"そこ、あっさり肯定かよ。"
と思わずツッコミそうになっていると、彼は言葉を続ける。

「分かりません。でも、命の重さは分かっているつもりです。」
少し強い口調になった。
彼の言葉には信念というものが感じられた。

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