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欲望という名のゲーム?106

[553]  矢口 沙緒  2010-08-16投稿



「なんだ喜久雄。
お前、将棋が出来るのか?」
「ええ、あまり強くはありませんが…
実戦よりも、主に詰将棋なんかをやってるほうが多くて…」
そこへ友子が息を切らせて戻って来た。
「はい、駒と盤」
「よし、さっそく並べてみよう。
孝子、やってみてくれ」
孝子はメモを見ながら、駒をひとつひとつ並べだした。
「そして、最後に白のクイーンを『gの3』と。
はい、出来た」
「確か雅則は、クイーンを正しき位置に導けって言ってたよな。
この『gの3』が正しき位置なのか?」
明彦が首を傾げる。
「これが何なのかしら?」
深雪も不思議そうに盤面を見ている。
この駒の配置が、いったい何を意味するのだろうか?
それが、さっぱり分からないのだ。
孝子はチェスの本を、あちこちとめくっては見ている。
友子はこれが何かに似ているのに、気付き始めていた。
何だったかしら?
食堂の柱時計が九時を打った。
残り三時間が、彼らに残された時間だった。
「ねぇ、あなた。
これ、あれじゃないかしら?」
「あれって、何だよ」
「あなたがいつもやってる詰将棋よ」
「詰将棋?」
喜久雄は盤面を上から見た。
なるほど、確かに似ている。
全体的な駒の配置。
駒の数の少なさ。
特に黒の駒は、ふたつしかない。
「孝子、チェスにも詰将棋のようなものがあるのか?」
「ちょっと待って。
今、調べてる。
あっ、あるわ。
チェスでは『チェス・プロブレム』または、ただ『プロブレム』って言うの。
詰チェスね」
「詰チェスか。
これがもし、その『プロブレム』ってやつだとしたら、これの答がクイーンの正しき位置って事になるんだな。
そこへ導けってわけだ。
孝子、お前チェスが出来るのか?」
「駒の動かし方くらいなら分かるけど…
でも、こういうのって苦手。
喜久雄兄さんやってよ。
駒の動かし方は教えるから。
詰将棋、得意なんでしょ」
「喜久雄、お前しか適任者はいないみたいだな。
孝子と協力して、やってみろ」
「僕がですか?
でもチェスなんか、やった事ないし…」


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