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流狼−時の彷徨い人−No.62

[677]  水無月密  2010-08-18投稿
 常軌を逸した段蔵の動きに、ノアと半次郎は警戒を強めていた。
 だがその姿は、二人の眼前で蜃気楼の如く、周囲の風景と同化して消えていった。
 それを目の当たりにしたことで、ノアはこの男の能力に大方の目星がついた。

「幻術使いの飛び加藤、それがあの人の異名です」
 消えた段蔵を警戒しながら、半次郎がそうつげた。
「…やはり幻術使いか。
 半次郎、直ぐさまこの場から退避しろ。
 ヤツのオーヴはサイレント系の中でも高等な技術を要する必殺の術、イリュージョン。
 オマエがいても、足手まといになるだけだ」

 半次郎を気にかけるノア。
 その彼女に、双刀を抜き放った段蔵が正面から急襲する。


 左右同時に襲い掛かる二本の刀を、ノアは後方に跳ね退くことで避けきった。
 間髪入れずにこれを追尾する段蔵。
 逃げるノアは、半次郎から遠ざかるように退路をえらんでいた。


 戦闘嗜好者である段蔵は端から半次郎を相手にしておらず、ノアだけを標的にしていた。
 この男にとって彼女ほどの実力者は、滅多に出会えることのない獲物なのである。

 執拗にノアを追い、交差する一瞬に無数の斬撃を浴びせ掛ける段蔵。
 だが、それでもノアの身体には、かすり傷一つつけられない。

 期待を裏切らぬノアの動きに、段蔵は戦慄の笑みをうかべた。
 そしてまた、ノアの眼前で樹海中へと姿を同化させていく。


 疾風迅雷の斬撃を、顔色一つ変えずにかわし続けるノア。
 彼女にとって左右から無数に繰り出される双刀の刃は、防御に専念すれば防ぎきれる攻撃だった。

 だが、それでは攻撃に転じるきっかけがつかめない。

 ノアにとって厄介だったのは、彼女がイリュージョンとよぶ段蔵の幻術だった。
 この男のイリュージョンは完璧であり、姿だけではなく気配までも完全に消していた。

 ノアが攻勢に転じるには、段蔵が仕掛けてくる前にその位置を察知し、先制の一撃をあたえるほかなかった。


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