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七色の金魚?

[271]  MINK  2006-08-31投稿
いつの間にか、眠ってしまったらしく辺りは暗闇に包まれていた。
ただ、その暗闇に溶け込んでいなかったのは七色の金魚だけだった。
私は、暗闇に溶け込んでしまわないように部屋の電気を付けた。
夜は秋の風が入ってきていた。
夏ももう終わりに近づいていた。
「そう言えば、ヒロは何を食べるのかな?」
私は、誰に聞くでもなく金魚に向かって話しかけた。
昔、飼っていた金魚の餌の残りがある事を思い出して私は戸棚の中を探しにいった。
「凄く古いものだけれど、今日一日だけ我慢してね。明日買いに行くから」
そう言って、二・三粒の餌を与えた。
私は、また彼のことを思い出した。
五年間思い出さないことに必死だったのになぜか、金魚を手にしてからは不思議と彼の事を思い出した。
「これがヒロの力なのかな?」
私はまた返事もしない金魚に向かって、声をかけた。
「でも、彼の記憶は消えていないけれど」
そう付け加えた。でも、金魚は何も答えてはくれなかった。
ただ、五年前の餌を不服そうに突っついていた。
私は何故かお腹がいっぱいでご飯を食べたい気にはなれなかった。
いつだったか、彼が私にご飯を作ってくれたことがあった。
全部私の好きなもので私はそれだけでも嬉しかったのに彼が作ってくれた事が何より嬉しかった。
「本当に美味しいよ」
私は笑顔で言った。
「また、作ってやるよ」
彼も満更ではない様子で笑った。
私たちの思い出はいつだって笑顔ばかりだった。

「会いたい…」誰に言うでもなく呟いた。
今度は金魚に言うでもなく、呟いた。

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