欲望という名のゲーム?117
2
「た、孝子様!
どうして…?」
鹿島は立ち上がった。
「鹿島さんに見せたい物があるのよ。
貴方がこの屋敷を解体する前に、どうしても見てもらいたい物があるの。
それでわざわざ戻って来たのよ。
あの道をずっと歩いて」
そう言って、彼女は後ろ手にドアを閉めた。
「屋敷を解体?
いったい何の話です?」
孝子がいたずらっぽい目をした。
「とぼけてもいいわよ。
だって鹿島さんは、お芝居がお上手ですものね。
でもね、もうこの屋敷は私の物なの。
だから、貴方に壊す権利はないのよ」
そう言って孝子は、手に持っていた四枚の封筒を見せた。
それを見た鹿島の目が、一瞬大きく開かれた。
「そ、その封筒は…
どうして、あなたが…」
封筒には、明彦、喜久雄、深雪、孝子とそれぞれ書かれている。
その字体は、紛れもなく雅則の筆跡だった。
「見れば分かるでしょ。
本物よ。
表書きの字に見覚えがあるでしょ。
間違いなく雅則兄さんの字よね」
「いつの間に、それを…」
そう言った鹿島の顔から表情が消え、冷たく危険な眼差しだけが残った。
恐ろしく危険な眼差しだった。
孝子は鹿島の前まで歩いて行った。
二人の間隔は1・5メートルほど。
巨漢の鹿島が見下ろし、そして小柄な孝子が見上げる格好となった。
「私達がどんな経過をたどって、あのホールの床の隠し扉を見つけたかは、知っているのよね」
「大体のところは、伺っていますよ」
その声からも、いっさいの表情が消えていた。
ただ孝子を見下ろす目が、冷たく光っているだけであった。
「実はね。
あの扉は正解だったのよ。
あれが答だったの。
この封筒はね、あの中に隠してあった物なのよ」
「しかし、あの時にはなかったはずだ」
「当然よ。
だって、私が取り去ったあとだったから。
代わりに私がワープロで書いたメッセージと、あのスマイル君を入れておいたのよ。
最初から説明しましょうか?
貴方にも分かるように」
「是非とも、そうしていただきたいですね。
私にも分かるように…」
鹿島が危険な光を宿した目を細めた。
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