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欲望という名のゲーム?119

[568]  矢口 沙緒  2010-09-03投稿



「私が最初にそれを見付けて、そして遺産を一人で相続したら、それをみんなが知ったら…
私は無事に済むかしら?
みんなの前で私が遺産を相続してしまったら、もう雅則兄さんのゲームは意味がなくなるのよ。
今度意味を持つのは、私の命。
駅のホームで電車を待っている時に、後ろから押されるかもしれない。
一人で夜道を歩いていたら、不審な車に轢き殺されてしまうかもしれない。
とにかく私が死ねば、私の相続した遺産を、今度は残った兄弟三人で分配できるのだもの。
そうでしょ。
もちろん私の兄弟達だから、みんな紳士淑女よ。
そんな事するはずがないわ。
でも、人間の欲望って怖いのよね。
最初から手に入らないと分かっている物には、それほど執着しないのよ。
だけど反対に、もう少しで手に入りそうだった物には、異常な執着を示す事があるの。
欲しくて欲しくて、自分を抑えられなくなってしまう事がある。
それが欲望よ」
「つまり、守りを固めたという事ですね」
「あのビトゥイン・チェスの時に言ったじゃない。
このゲームで一番大事な事は、まずキングの逃げ道を確保する事だって。
誰にも知られずに宝を見付け出す事が、このゲームに勝つ、ただひとつの方法なのよ。
だから私は宝探しに興味のないふりをし続けた。
私もお芝居をしていたのね。
鹿島さんと同じように…」
「私が芝居を?
いったい何の話です?」
孝子は少し笑った。
「いいのよ、別に。
まだ、話は終わってないんだから。
とにかく私は、迂濶な行動は控えなくてはならなくなった。
喜久雄兄さんと友子さんの見張り作戦は、私には脅威だったわ。
絶大な効果があったの。
地下のワイン貯蔵庫に行って、白のクイーンを取って来たくても、それが出来ないんですもの。
もし私がお酒が好きなら、ワインが飲みたくなったから、という理由で地下のワイン貯蔵庫に行けるけど、最初のテープの中で雅則兄さんが
『孝子はアルコールが弱かった』
と言ってしまってるから、私が地下にいく正当な理由がないのよね。
その私が地下に行くところを見られたら、不審に思われるかもしれない。
だから私はチャンスを待った」
「なかなか用心深いですね」
鹿島が孝子を見下ろしながら言う。



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