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欲望という名のゲーム?120

[530]  矢口 沙緒  2010-09-05投稿



「そして三日目にチャンスは来たわ。
明彦兄さんが庭の木の根元を掘り出した時よ。
貴方も含めて全員が木の所に集合していた。
私は地下に降りて、ピカソのラベルのシャトー・ムートンを自分の部屋まで運んだの。
そして、白のクイーンを手に入れたのよ」
「三日目にして、すでに白のクイーンを…
なんと、素早い」
鹿島はそう言って再び目を細め、孝子に一歩近付いた。
「先手必勝って言うでしょ」
孝子が一歩後ろに下がる。
「その夜の食事の後で、例のレモンパイが登場したわけよ。
あれは傑作よね。
雅則兄さんの苦心の策だわ。
なぜあのヒントをテープの中で言わずに、あんな形にして提出したのか?
あれは、私達を驚かせるのが目的ではないわ。
本当の目的は、兄さんが貴方を警戒したためよ。
貴方が遺産相続の権利書を探し回る事は、兄さんもあらかじめ予想していたのね。
だから、一番重要な手掛かりを、あんな形で伏せたのよ。
貴方がほかのテープを何度見ても、あのヒントだけは手に入らない。
あれがなくては、権利書を見付けるのは絶対に不可能ですからね。
雅則兄さんは用心深かったわよ。
ほかのどのテープにも、レモンパイについては一言も触れている箇所はなかったもの。
もっとも兄さんの心配は取り越し苦労だったけど。
だって貴方は結局、白のクイーンまでも、たどり着かなかったんですからね」
「孝子様は、何か思い違いをなさっているようですね。
私がなぜ権利書を探さなくてはいけないのですか?
私には相続権はないんですよ。
私には、何の価値もない物です」
「確かに貴方には相続権はないわ。
でも、うまく利用すれば、かなりの金額が手に入るのよ」
「ほう、そんな方法があるのなら、是非とも教えていただきたいものですね」
「いいわよ。
貴方の最初の計画はこうだと思うわ。
貴方は私達がここに来る前に、あの権利書を見付けてしまおうとしたのよ。
そしてそれをどこかに保管してしまう。
その後で、私達は何も知らずにここへ来る。
そして、あのテープの要求に従って、遺産を放棄する書類を書く。
あの遺産放棄の証書を、貴方はどうしても欲しかった。
後でトラブルが発生しそうになっても、あれさえあれば問題は起きないわ。
そうよね」
孝子は少し笑い、先を続けた。



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