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七色の金魚?

[289]  MINK  2006-09-01投稿
「返してよ。彼との思い出」
「あなたが忘れたいと言ったんじゃないか」
「そしたら楽になると思った」
叔父さんの言った事は嘘じゃなかった。それについては何も言えなかった。
「忘れたいと言うから忘れさせてあげたんだ」
「忘れたかった。私一人残して逝った奴の事なんか!!」
「なら、いいじゃないか」
「駄目なの。彼の記憶だけでも、彼がいないと私は駄目なの」
涙が出た。止まらなかった。止めようとも思わなかった。
「消していい記憶なんて何もなかったの」
「じゃあ、なぜ消したかったんだい」
「会いたかったから。五年間」
叔父さんは、一つため息をついた。
「あんたが初めてだよ。記憶を消しきれなかったのは。よっぽど消しちゃならない思い出らしいな」
私は泣いた。止めない涙は、どうしようもないくらい流れた。
「ごめんなさい。私は彼を忘れられない…」
「謝る事じゃない。大切にしなさい。そんな大切な人に会うことも出来ない人だっているんだから」
そう言って、叔父さんは微笑んだ。
私は大きく頷いて微笑んだ。久しぶりに本当に心から笑えた気がした。
「ありがとう」
「一つ教えてあげるよ。彼は約束を忘れてないそうだ」
「約束…」
私は、彼らしいなと思い嬉しくなった。最後まで優しい彼だった。
マンションにつくと、全てが夢なんじゃないかと思った。
それでも良かった。ただ、私の中に彼の思い出は全て戻っていた。
空になった金魚鉢に目をやると、そこには赤い小さな金魚が泳いでいた。
私は、これが彼の『約束』の答えな気がした。
まだ、傷は治らない。ただ、彼を忘れようとは思わない。
忘れたい想い程、どうして忘れられずに心に残るのだろう。
忘れるべき想いではないからなのだろう。
私は、共に生きていく。
それが私の『約束』の答えだから。

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