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ビオトープの葉 〜約束の跡〜 (第1話)

[178]  freenote  2010-09-12投稿
 学生という身分を卒業してから、およそ3年の時が過ぎようとしている。一流と言われるほどのホテルに、僕は運よくコックとしての職を得ていた。一社会人としてほどほどの安定した生活が過ごせるようになった今日、次に考えるべきは家庭を築くことなのだろう。同窓の旧友の中にはすでに子供さえ持つ人もいた。けれど、僕自身に結婚するという考えは毛頭なかった。
いつの間にか両親が結婚したときと同じ歳を迎えた自分がいる。現代の感覚を以ってすれば不安の方がが大きくて、20代での結婚は避けたい所だ。しかし周りの古い人間はそれを不思議と感じるらしい。
「お前もいつまで家にいるんだろね。早いとこお嫁さんもらって独立してもらわないと」
そんな母の怨言を週に3回は聞いていた。
学生時代に一人暮らしを経験し、僕はその大変さが身に染みていた。そういった訳で、実家に寄生する今の気楽な生活スタイルから離れる勇気もなかった。もちろんそこにいる以上は生活費も納めているし、家事もたまには手伝ったりする。だからといって一生居座られては親としても迷惑千万だ、という意見も分からなくはない。
結婚する。僕にとってはまるで、遠い未来のことのように思えてならなかった。もしかしたら死ぬまでしないかもしれない。そう言える根拠は確かにある。もう何年か前になる、痛みを伴った記憶が。それがために僕はこの数年、まともな恋愛や新しい友人と呼べる存在も求めることをしてこなかった。いや、できなかったと言うべきか。
さておき、そんな僕にも心の中をさらけ出せる人が一人だけいた。都築真唯子(つづきまいこ)という名の幼稚園から20年来の付き合いで、いわゆる幼なじみという奴だ。小中高と同じ学校、同じクラス。ここまで来るともう因縁としか言いようがないのかもしれない。彼女が遠く離れた京都の大学へ進学したときは、ようやくその呪縛から逃れられた気がして嬉しかったのだが……。
「っと、メールか」
帰宅電車の中でうたた寝の僕を起こしたのは、真唯子からの電子便だった。科学の進歩とはすごいもので、どんなに遠くても人と人とを瞬時に繋げられるようになってしまった。便利であることと役に立つことは必ずしも両立しない。今僕の手の中にある物がまさにそれなのだが、降車駅寸前でタイムリーな目覚ましベルをくれたことについては感謝の意を返信しておいた。

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