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欲望という名のゲーム?132

[854]  矢口 沙緒  2010-09-14投稿



「雅則様の考えられたこの奇妙なゲームは、やはり意味があったのかもしれませんね。
本当に遺産を相続すべき、ただ一人の人間を見事に選びました」
孝子が手の甲で目頭を拭きながら立ち上がった。
「さぁ、行きましょう、鹿島さん」
「どこへ行かれるのですか?」
「牧野さんやパブロの所よ。
牧野さん達は、またこの屋敷に戻ってきてくれるかしら?」
「きっと喜んで帰ってきてくれると思いますよ」
そう言って、鹿島も立ち上がった。
二人は並んでホールを歩いた。
「牧野さん達が戻ってこられたら、もう私に用はないのですね」
「あら、それは困るわよ、鹿島さん。
この屋敷や遺産を維持していくのは、私一人じゃ出来ないわ。
貴方が必要よ」
「そうですか…
こんな私でも、必要ですか…」
「それにね。
鹿島さんがいなくなると、ビトゥイン・チェスの相手がいなくなっちゃうもん。
なにしろ、世界選手権ですからね」
鹿島が笑った。
屈託のない、明るい笑いだった。
二人はホールを抜け、表に出た。
透明な夜の空気が静かに流れている。
空は満天の星だった。
花畑に囲まれた車寄せの道を、二人は鹿島の車まで歩いた。
鹿島は考えていた。
なぜ孝子がここに戻ったのかを考えていた。
彼女がここに戻ったのは、遺産の権利書のためではない。
彼女がここに戻った理由、それは牧野さんやパブロのため、私の手からこの屋敷を救うため、そしてこの私を救うためだ。
そのために、彼女はこの屋敷まで延々と続く山道を、歩いて戻って来たのだ。



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