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宝を手に。

[970]  キンセイ  2010-09-28投稿
薄暗い闇の中、弱々しいの灯りを取り囲むようにに5人の人影が写っている。

その場所は石造りで出来た無機質な石室。

5つの人影は目の前の宝を前に口々に話に華を咲かせている。

眼鏡をかけた白髪まじりの男を「教授」と呼ぼう。

たくましい背丈の男を「ガイド」と呼ぼう。

恰幅の良い小柄な男を「コレクター」と呼ぼう。
やや疲れた顔で大きなリュックを背負い不精を蓄えた無口な男を「冒険者」と呼ぼう。

歳は重ねているが美しい女性を「夫人」と呼ぼう。

5人は宝の今後の在り方について白熱していた。

「これを世間に公表すれば、わしは学会でも、世にも名前を残せる!」教授は言う。

「これを売ればもうガイドなんて仕事しなくても一生遊んで暮らせる!」ガイドは言う。

「これをコレクションすれば他の奴らがまた羨むだろう!」コレクターが言う。

「この宝は…。」と低く小さな声を出してすぐに考え込んだ。

「これを夫の企業の目玉にすれば、夫はまた出世するわ!」夫人は言う。

自分達の今後の事を思い思いに話し出す。

そこで気付く。
それぞれが宝の在り方に違いがある事を。
その事に気付くと一斉に互いの主張を繰り返す。

「世界的に価値のあるものだ!私の名前で公表すべきだ!」

「私が案内してここまで来れたんだ!宝を売る権利がある!」

「私がこの宝の情報を教えたんだ!宝は私の物だ!」

「この宝一つが原因でここまで争うのか…」

「ここまでの旅費は私が出したのよ!私にも権利があるわ!」


石室には5人の争う声が続く。灯りが消えてしまうその時まで………。



消えかけた明かりに再び灯りを灯す。

どれくらいの時間が経ったのだろう?

「冒険者」は深く息を吸い込み、そしてゆっくりと息を吐き、声を出した。

「宝一つが原因で人はここまで争うのか…」

「冒険者」のいる石室にはお互いを憎み争ったかのように無惨な白骨死体が4つ横たわっていた。

着ている物から見て、学者だろうか?こっちはガイド?小柄な死体は女性だろうか?
宝を中心に4つの白骨化した死体が宝に向かい手を伸ばしている。

ある者は名誉欲。
ある者は金銭欲。
ある者は収集欲。
ある者は出世欲。

それぞれの思惑があったのだろう。死してなお求める「宝」とはなんだったのだろう?

冒険者はもう一度深く息を吸い込み、もと来た道を戻った…

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