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天使のすむ湖45

[337]  雪美  2006-09-04投稿
 俺は香里をボートに乗せると、岸につけてあるロープを外して漕ぎ出した。ゆっくりこいで、真ん中辺りで止めると、香里は水を右手ですくって、水は太陽に照らされてキラキラと輝いていた。
「見て、この手を最近右手がふるえるの、それに前は見ただけで思い出せた、数学の方程式がどうしても思い出せないの・・・ごめんね、家庭教師できなくて、去年の夏はここで泳いでたのに、今は泳げない、歩くのがやっとなの・・・」
明らかに、香里の右手が震えると言うことは、左脳を犯されている証拠で、いずれは言語中枢をやられていけば、言葉が出なくなるだろう事が予測された。しかし俺は、そんなことは言えないし、どうでも良いことだった。香里の持つ喪失感は計り知れない不安と恐怖が入り混じり、子供のように泣きじゃくり始めた。
「香里、俺はいろんな事を教わった。努力することの大切さや、その美しい心をね・・・だからいいんだよ、何も出来なくても俺の愛したひとだから・・・勉強は桜井と一緒にこれからも続けるよ、何があってもね、出来ないところは遠慮しないで言ってほしいんだ、手助けするから・・・」
俺はそっと泣く香里を抱きしめたが、なかなか涙は止まらず、しばらく泣きじゃくり、背中が震えていた。優しく背中をさすると、
「もし寝たきりになっても、私のこと好きでいてくれる?」
と聞いてきた。
「当たり前じゃないかーどんな姿になっても愛してるよ〜」
そう言って、頬に伝う涙を俺は指でぬぐって、口付けた。哀しい、涙の味がして、何で最近数学の宿題になると頭を抱えて寝てしまうのか、ようやくなぞは解けた。
五月の風が緩やかに二人を包み、ようやく涙が乾く頃、
「少し冷えるわね、」
そう言ったので、ボートを岸に戻すことにした。そんなに冷たい風ではないのに、やけにこの頃寒いとか、冷えるとか言うようになった。それだけ体は病に冒されている証拠なのだ。
それでも心優しい香里は、岸辺に着くと桜井に笑顔を向け続けていた。
俺なら出来るだろうか?死の恐怖に怯えながらも人には笑顔を絶やさないのだから・・・
笑顔の向こう側を俺は見せられた気がして、俺に弱音を吐いてくれたことで、少しでも心が軽くなれば良いと思っていた。そんなたやすいものではないと知りながら・・・

桜井が片づけをほとんどしてくれて、ありがたかった。



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