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ベースボール・ラプソディ No.51

[721]  水無月密  2010-11-10投稿
 ケタケタ笑いながら八雲達のやり取りを聞いていた小早川は、再び須藤のサポーターに視線をうつした。
「そういやこの前見た地方プロレスの試合で、それと同じサポーターつけたマスクマンが出てたなぁ。
 背格好もちょうど竜之介ぐらいだったけど、まさかお前じゃないだろうな?」

 冗談で口にした小早川だったが、途端に須藤は無口になり、視線をそらした。

「………」
「お前かぁっ!!」
 声を揃えて荒げる小早川と八雲。

「頼むからこの事は秘密にしといてくれっ。
 素性がばれないことを条件に、ようやくリングに上げてもらえたんだ、だから頼むっ、この通りだっ!!」
 必死に頭を下げる須藤。

 唖然とする小早川と哲哉。
 だが、須藤が本気でレスラーを目指し、努力していることをしる八雲は一人微笑んでいた。

「そうか、夢にむかって大きく一歩踏み出せたんだな。
 応援するぜ、竜之介っ!」
「おう、まだ前座でやられっぱなしだけどな。
 いつかきっと、最高のレスラーになってみせるぜっ」
 目を輝かせる須藤。

「オマエならなれるさ、世界一のコミック・レスラーに」
「おう………?
 何で俺が、コミック・レスラー目指さなきゃなんねーだっ!」

 怒る須藤に、八雲は屈託のない笑顔でこたえた。
「そう怒るなって、でっかい夢にむかって突き進むオマエが、ちょっとだけ羨ましかったんだよ」

「……八雲、お前の夢って何なんだ?」
 ふと気になった須藤がたずねた。

 彼にとって、八雲は自分の夢を語れる、掛け替えのない知己であった。
 その友が一度も夢を口にしないことに、彼は日頃から微かな憂いを感じていたのだ。


「夢か……」
 少し考え込む八雲。

「昔はあった気がするけど、今じゃそれが何だったのかすら、わからなくなっちまったな」
 小次郎と甲子園にいくというのは約束であり、厳密には夢ではなかった。

 仮にそれを夢と位置づけたとしても、それはどんなに努力してもかなうことはないのである。


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