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オバケ

[365]  はこもの  2006-09-05投稿
彼はいつもの居酒屋の、いつもの席に座っていた。

僕もこの居酒屋の常連客だが、彼はいつも同じ場所にいた。

「こんばんは」僕は思いきって、声をかけてみた。「この居酒屋には結構来るですか?」

「それなりに」声は低くもなく、高くもなく、その中間でもなかった。

僕はビールと適当なツマミを注文した。

この居酒屋はカウンターに椅子が6つ、それと4人用のテーブルが2つの小さな店だ。

彼のいつもの席というのは、カウンターの一番奥の席だった。

僕の前にビールとツマミがきた。泡立ったその液体を一口で半分ほど飲んだ。

「あんた、ビールが好きなのか?」彼は日本酒を飲んでいた。

「はい」なんで僕はビールが好きなんだろう。

「俺も昔はそうだった」日本酒が入ったグラスの横には、焼き魚があった。「でもやめた。飲み過ぎると腹がでる」

「僕はそんなの気にしませんよ」僕は言った。「飲みたいものを飲みたい」

「理由はそれだけじゃない」彼は酒を少しだけ飲んだ。「ここの焼き魚と、ここの日本酒は本当によく合うんだ」

「今度ためしてみますよ」




時刻は12時を少しまわったところだった。オヤジが閉店の準備をしていた。

「あんた」彼が口を開いた。「俺のことはオバケと呼んでくれ。それに敬語は無しだ」

「オバケ?」

「ああ」

時計の針は12時3分を指していた。

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