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子供のセカイ。224

[392]  アンヌ  2010-12-13投稿
マントの下から知性を湛えた緑の瞳が、ゆっくりとなぞるようにスクルの城の輪郭をたどっていく。ミルバの脳裏をよぎるのは、膨大にして遥かなる時間。長い長い年月をこの城で過ごし、そしてその間に、数え切れないほど様々な出来事があった。
“子供のセカイ”は波乱に満ち、危険と隣り合わせなことも多かったが、ミルバが支配者だった時代は、そのすべてをうまく取り仕切り、穏やかに日々は過ぎていった。ハントたち治安部隊がいつもミルバを支えてくれ、城兵部隊は頼もしく城を警護し、“子供のセカイ”と“真セカイ”を繋ぐ“闇の小道”を守る、神々しい姿をした獣の番人は、忠実に掟を守り、二つのセカイの秩序を維持していた。彼らは皆、ミルバと共に生まれ落ちた者たちだ。
彼らはいつでもミルバと共にあった。始源の光の子供がこのセカイへとやってきて、“子供のセカイ”が始まりを告げたその時から、ずっと。

――後は頼んだよ、ミルバ。

ミルバたちを生み出し、混沌としていたこのセカイに現在のような秩序を与えた光の子供は、すべてをミルバに託して、“真セカイ”に帰って行った。
もう、何百年前のことになるのだろうか。
(あれから時は流れ、ここもすっかり変わった。)
何より今、ミルバは支配者の座にない。城は破壊され、城兵部隊の半数も消され、残りの半数と治安部隊、そして番人は、あちら側に取られてしまった。
だがミルバは、諦めるつもりはなかった。
むしろ、ようやくここまで来れた。幾度もの失敗を重ね、試行錯誤の上で、ようやく最後の可能性に出会えたのだ。
それは、「美香」という存在だった。
“子供のセカイ”を征服する舞子の姉。彼女こそが、ミルバにとって唯一の希望の光だ。
だから。
美香を前へ進ませるために、ミルバは協力を惜しまない。それは舞子を止めることを望む美香のためではなく、間違った道を進む舞子のためでもない。ましてや自分のためであるはずがない。
ただ、遠い日に交わされた約束、自らの使命を果たすために。すべてのセカイを守るために。
(そして、もうこれ以上、あの者たちを殺さないために。)
ミルバは眉間に深いしわを刻むと、ぐっと目を閉じて歯を食いしばった。
獣のような青年の横顔が、ひどく鮮明にミルバの胸を突き刺した。
その時、空気が切り裂かれる気配がし、ミルバの背中に鋭いものが突き当てられた。

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