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子供のセカイ。225

[361]  アンヌ  2010-12-15投稿
「……前支配者、ミルバだな?」
背後から野太い声がかかる。
ミルバは振り返らなかった。
恐らく、後ろで槍を構えているのは、舞子が生み出した城兵部隊の一員だろう。
二日前の夜、ミルバの分身の一人が夜羽部隊を相手に、あれだけ大立ち回りしたのだ。追っ手が放たれないはずがなかった。
崩れた城を前にして、縦に並んだ二人の影が、夕日に背く方に長く伸びる。片方は小さく、片方は大きい。兵士は緊張していた。マントを頭からすっぽりと被った小さな子供は、刃を突き付けられているというのに、まったく動揺した気配がない。それどころか、槍を構える兵士の腕の方が緊張で震えていた。兵士は聞こえないように舌打ちし、心の中でなんとか自分を鼓舞した。
そんな兵士に見えないところで、ミルバは誰にも見せたことのないような、底意地の悪い顔で笑っていた。
――ここからが、勝負だ。
「だったらどうする?」
あえて挑発的に言うと、槍先がさらに強く背中に押し付けられた。
「このまま大人しくしていてもらおう。仲間がすぐに応援を呼ぶ。そうすれば……、そうすれば、あんたはおしまいだ。」
ミルバが口を開いたことに安堵したのか、男はやけに饒舌で、たいして面白くもないような台詞を吐いた。
それを耳にした途端、ミルバは声を上げて笑い出した。
兵士はぎょっとし、
「な、何がおかしい!?」
と、いっそう切羽詰まった顔で槍の柄を握る手に力を込めた。馬鹿にされたと感じたことから、顔は上気し、目を危険な色に光らせている。
ミルバはようやく笑いを納めると、朗らかな調子で言った。
「いや、悪いね。私は君より幾分速いし、強いんだ。」
兵士は何を言われたかもわからない内に、首裏に重い衝撃と痛みを感じ、世界が回った。どっと地面に倒れ伏した時、ようやく子供に攻撃されたことを知る。
意識が飛ぶ寸前、上から降ってきたミルバの低い声が、闇の中でからかうような口調で言った。
「覇王に伝えてくれ。時期さえ来れば、私は逃げも隠れもしないと。」
そして兵士は気絶し、ミルバは軽快な足取りでその場を去った。
これで一つ、「ミルバ目撃情報」が作成された。
これがミルバの作戦だった。あちこちで姿を現しては消え、情報を撹乱させる。恐らく覇王が心底危険視し、消したがっている美香は、ミルバと共に行動していると予想されているはずだから。

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