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虚無の瞳

[319]  2006-09-06投稿
彼女の上にのしかかり,その細くて白い喉に手をかけた。
僕の物にしてしまいたい。殺したい。愛しい。
彼女は抵抗するでもなく,ただじっと僕を見つめていた。
いつもの,虚無だけが映った瞳。
「・・・怖くないのかい?」
たずねてみる。そして,指の力を強める。
「別に?」
彼女は平然と答えてみせた。
・・・気に喰わない,癪に障る。
怖がれよ,悲鳴をあげろよ,抵抗しろよ。
「こうやって,殺されそうになってんのに?」
「怖くない」
更に指にこめる力を強めた。
ひどく―苛立つ。
彼女の鼓動が,とくん・・とくん・・と僕の指を伝って流れてきた。
更に苛立って,また指の力を―\r
強めようとした。できなかった。
自然とその手は首から離れ,きゅっと彼女を抱きしめていた。
苛立ちが,愛しさに代わる。我に返る。
「・・・悪い」
「いいよ,別に。」
彼女は虚無の瞳で,言った。
「また殺したくなったら,どうぞ?」

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