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海上の道 <下>

[796] シナド 2011-02-18投稿
私は茫然としながら浜辺まで降りていった。

よくよく光の道を見ると、それは道ではなく、さっきのハルのように光を帯びた無数の猫たちが集まって道のように見えているのだとわかった。

猫たちは西の方角へと海面を歩いて向かっていた。

この光は死んだ猫たちの魂ではあるまいか?
そしてこの浜から西方浄土へ向かうのではないだろうか?
私はこの世のものとは思えない光景を見てそう思った。
ならばハルも、死んでしまったというのか?

こんな寒い中で、たった一匹で。

光の道の始まりを見ると、浜辺を歩いて次々と猫たちが加わっている。

そこから少し離れて、こちらを動かずにじっと見ている猫がいた。

ハルだ。

大きな目を、こぼれんばかりに見開いている。

憂いているかのような顔だった。


ハル、ハルよ、お前は、普段は素っ気ないくせに、俺が落ち込んでいる時は側にいてくれたな。
親父が死んだ時もそうだった。

妻が嫁にきた時、お前はさんざん嫉妬したな。だが妻に子ができた時は自分の子のように可愛がり、いい遊び相手に成ってくれた。

「お前がいてくれたおかげで毎日楽しかった。ありがとう。俺のことは心配するな。」

私はそう呼びかけた。

ハルは満足したように目を細め、波の上を静かに歩き、光の列に加わっていった。

私は海上を歩いていくハルをずっと目で追っていたが、やがてその姿は沢山の小さな光の中に紛れてしまった。

私はその無数の淡い光を見つめながらぼんやりと考えた。

人のゆく浄土と猫のそれは同じだろうか?

しかし、魂だけに成ってしまえば人も猫もそんなに違いがあるだろうか?

必ずまた会えます―

「また会おうなあ。」


私はそう呟いて、海上を何処までも連なる、あたたかな光の道に向かって手を合わせた。


東の空が白む。

もうすぐ夜明けである。

感想

  • 40923:素晴らしいお話、どうもありがとうございました。[2011-02-18]
  • 40926:コメントどうもありがとうございます。感謝感激! シナド[2011-02-21]

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