【桜花〜Act.2 桐谷先生】
「アリちゃん」
「…何」
ハァと桐谷先生が溜め息を吐く。
「ファミマで拾って家に着いてから何も喋らないじゃない。」
「…。」
「今日は珍しく"次代"も静かだったから,もうお店閉めちゃったの。年末前ってのに,ねぇー…」
桐谷先生−本名桐谷佑司は元医者だ。
私が結婚前に勤めていたレディースクリニックの院長の"元"息子。
今は源氏名「桐谷依子」としてスナック「次代」を経営している。
ここに来る客は皆「依子」「ヨリちゃん」と呼んでいるが,私だけ昔の名残を言い訳に「キリちゃん」「桐谷先生」と呼んでいる。
「聞いたわよ,和ちゃんと別れたんですってね。」
私が煙草を口に加えたのと同時に,桐谷先生が翳しながら火を灯してくれる。
「和人は,今も…?」
「来るわ,時々ね。」
「…」
「"アリちゃんに詫びたい"って言って来た事もあったわ。けど私から断った」
「ありがと,ママ」
私なりの気丈な振る舞いを見破って,桐谷先生は慰めるような顔をした。
「今日はこんな時間まで何してたの?」
「大阪からの帰り」
「…またケイちゃんとこ行ってたの?」
「ケイ兄は仕事。だから"専務の義妹"ってチヤホヤされて帰って来た。」
今日はいつもの思い付きで大阪まで行っていた。
ケイ兄は小栗啓太−和人の義兄だ。
和人と別れる前から,ケイ兄とは実の兄妹みたいに仲が良かった。
今晩はケイ兄の会社の社割を使って,新大阪のホテルに泊まる予定だった。
もちろん,ケイ兄名義で泊まるのは私だけ。
勝手な独り旅を楽しむ予定だった。
だがこんな今日に限って,ケイ兄は義妹の我が儘に応えてくれなかった。
ホテルの予約を頼もうにもケイ兄本人は香港出張中。
結局梅田の喫茶店で4時間,煙草を吹かして帰って来た。
「ケイちゃんの会社の場所知らないクセに」
桐谷先生はそう言うと,見え透いた嘘を付いた私を意地らし気に笑う。
「…無理もないわ,まだ1カ月たってないもの。」
「早く忘れちゃいたいよ」
私は,ついさっきまで自分の隣でカラカラと良い音を奏でていた"元老院"を飲み干した。
「…何」
ハァと桐谷先生が溜め息を吐く。
「ファミマで拾って家に着いてから何も喋らないじゃない。」
「…。」
「今日は珍しく"次代"も静かだったから,もうお店閉めちゃったの。年末前ってのに,ねぇー…」
桐谷先生−本名桐谷佑司は元医者だ。
私が結婚前に勤めていたレディースクリニックの院長の"元"息子。
今は源氏名「桐谷依子」としてスナック「次代」を経営している。
ここに来る客は皆「依子」「ヨリちゃん」と呼んでいるが,私だけ昔の名残を言い訳に「キリちゃん」「桐谷先生」と呼んでいる。
「聞いたわよ,和ちゃんと別れたんですってね。」
私が煙草を口に加えたのと同時に,桐谷先生が翳しながら火を灯してくれる。
「和人は,今も…?」
「来るわ,時々ね。」
「…」
「"アリちゃんに詫びたい"って言って来た事もあったわ。けど私から断った」
「ありがと,ママ」
私なりの気丈な振る舞いを見破って,桐谷先生は慰めるような顔をした。
「今日はこんな時間まで何してたの?」
「大阪からの帰り」
「…またケイちゃんとこ行ってたの?」
「ケイ兄は仕事。だから"専務の義妹"ってチヤホヤされて帰って来た。」
今日はいつもの思い付きで大阪まで行っていた。
ケイ兄は小栗啓太−和人の義兄だ。
和人と別れる前から,ケイ兄とは実の兄妹みたいに仲が良かった。
今晩はケイ兄の会社の社割を使って,新大阪のホテルに泊まる予定だった。
もちろん,ケイ兄名義で泊まるのは私だけ。
勝手な独り旅を楽しむ予定だった。
だがこんな今日に限って,ケイ兄は義妹の我が儘に応えてくれなかった。
ホテルの予約を頼もうにもケイ兄本人は香港出張中。
結局梅田の喫茶店で4時間,煙草を吹かして帰って来た。
「ケイちゃんの会社の場所知らないクセに」
桐谷先生はそう言うと,見え透いた嘘を付いた私を意地らし気に笑う。
「…無理もないわ,まだ1カ月たってないもの。」
「早く忘れちゃいたいよ」
私は,ついさっきまで自分の隣でカラカラと良い音を奏でていた"元老院"を飲み干した。
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