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【桜花〜Act.5 エピソード】

[251] ? 2011-03-21投稿
大将の店に着いた時には21時を回っていた。
20時に泉町のバスターミナルに着いてから,なかなかタクシーを呼び止められなかった私は,諦めてかつての"通学路"を歩いて向かうことにした。
学園通りの桜並木は毎年この時期になると,装飾を施され,イルミネーションの輝く幻想的な街路樹に生まれ変わる。
結婚前まで勤めていた桐谷レディースクリニックは,学園通りからちょっと入った路地裏にある。
「ここを歩いて通るのは3年振りだな…。」
和人と結婚してからは,和人の強い説得に推され,キャンサーセンターの通院センターに中途採用で入った。
私たちは敷地内にある宿舎に住まいを移し,夫婦生活を営んでいた。
離婚を機に私はキャンサーセンターを退職し宿舎を出た。
いまは実家から1時間程で行き来できるアパートに住み,そこから徒歩で通える内科医院に年明けから勤める予定だ。
−あの頃に戻ってやり直せたらな−
私は学園通りを歩いていても見える,路地裏に続いているポインセチアを見つめながら,ふと無意識に歩みを止めていた。
「…あ!やべ…もうこんな時間だー…」
時計は20時20分に差し掛かろうとしていた。
左肩に掛けた鞄をキッと持ち直し,足早に路地を横切った。

庄司はまだ来ていなかった。
「いらっしゃい。」
大将があの時のようにゆっくり口を開く。見た目は庄司よりも若いが,口を開くと庄司より深みを感じる。
「タクさん?」
「あ,そう。覚えてるかな。」
「連絡してみたら?」
「連絡先知らないの」
「知らないの?!じゃ連絡してあげるよ」
こないだのやりとりはなかったことのように,大将は話し掛けて来た。私はホッと安堵したのも束の間に,大将と庄司の電話口でのやりとりに息を呑んだ。
「タクさん?お疲れー…忙しい?ああ,こないだの子来てるよ,約束したの?…ああ,そうか,うん…うん,はいよ,気を付けて。じゃ」
「庄司何だって?…庄司酔ってたし自分から言っといて約束忘れてたんじゃ…」
「ああ,タクさんこれから来るよ。あとひと仕事片付けてから来るってよ。」
「…そう」
「何か飲む?」
「来てからでいいよ」
「とりあえずお茶出すよ…おい,こちらにお茶」
差し出されたお茶の湯のみで手を温めながら,あの日と同じカウンター前に座った。壁にもたれ掛かるようにして,暖簾の向こうに人影が揺れるのを待った。

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