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マッチ売り1

[305]  杉川 雄三  2006-09-10投稿
その日、街は夜だというのに人がまだ慌ただしく行き交っていた。今日はクリスマスである。皆、恋人や家族と思い思いの時を過ごしているのだろう。独り身で無神論者の私にとっては、どうでもいいことでもある。
日頃から大学で研究ばかりしている私には、このような変に余裕のある日は、どう過ごしたらいいのか分からず、結局、1日中カフェーに入り浸り、安酒を煽って時間を潰していた。
ふと、外を見ると、雪が降り始めている。本降りになると厄介だろう。私は自前のしわくちゃのトレンチを羽織り、店をあとにした。程良く酔いが回って、非常に気分が良い。
街はまだ賑わっていた。時刻は既に9時を回っている。さて、夜はまだ長い。これからどうしよう。家に帰っても何もすることはない。いっそのこと、そこいらにいる手頃な娼婦でも買って、共に朝を迎えようかしら。
そんなことを考えながら歩いていると、誰かにいきなり裾を引っ張られた。見ると、少女が1人、私をじっと見つめている。この子は家が貧しいのか、靴すら履いていない。
「お願い。マッチを買って。」
少女は助けを求めるような眼差しで、今にも泣き出しそうな声で、私にすがってきた。身体が小刻みに震えていた。
「お願い。マッチを買って、お金をちょうだい。でないとお父様に叱られちゃう。」
一気に酔いが醒めた。そして、私はこの子の父に対する怒りが沸々と湧き出した。
「君のお父さんは、君が持ってきたお金で何を買うの?」
「お酒と、変な匂いのする葉巻。」
怒りが頂点に達した。
「君は自分で稼いだお金で、何か買った事は?」
「一度も。」
「欲しい物はないの?」
「あるけど…、お父様がいてくれればそれでいいの。」
「君のお母さんは?」
「私が4つの時に、病気で…。」
「ごめんね、変なことを聞いて。」
哀れだった。可哀想で可哀想で仕方なかった。こんないたいけな少女が、何の罪で寒空の中働かねばならないのだろう。
「ねえ、お願い。マッチを買って。」
「でも私は、タバコも吸わないし、正直マッチも今は必要ないしなあ。」
「お願い、買って。マッチが要らないなら、…私を買って。」
頭が真っ白になった。膝が震えていた。
「ねえ、お願い。ねえ。」
私は答えられなかった。憎悪と哀愁と激怒が私の中で暴れていた。
「お願い。買ってくれたら、どんなことでもするから…。」
続く

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