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赤い月

[257] chika 2011-03-30投稿
あの日見た赤黒い細い三日月

「魔をさしなさい」
と言ってるかのようだった。

久しぶりに行った馴染みのバーで、一組の男女と知り合った。

その時私の胸にはあの日の細い三日月が突き刺さった。

その日から、私たちはよく三人で飲むようになった。

彼と彼女は二人で帰り、私は一人で帰る。


ある日、彼女が化粧室に行ってる時に彼が言った。

「今日は僕と一緒に帰ろう」

何も知らない彼女は彼がどう説明したのか、一人で店を出て、その前に彼が先に店を出て、最後に私が店を出た。

外に出ると、初冬の冷たい風が酒で熱った顔にあたり気持ちが良かった。


歩いていると、急に腕を掴まれた。
彼だった。

「今日は君の家に帰ろう」

何も話さなくても、彼は気づいていた。

一人で帰る私の寂しさと彼に対する私のおさえがたい感情を。

そしてまた私に対する彼のおさえがたい感情を。


「魔をさしなさい」


再びあの日の三日月を思い出す。


そして私たちは恋に落ちた。
急速な恋。

お互いに、魔がさした、というよりも、「こうなる運命だった」と感じる恋。


あの日の赤い三日月は、こうなることを知っているかのようだった。

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