幸福の時
バイトが終わり急いでメールを打つ修二。予定より10分も過ぎてしまった。息を切らせて待ち合わせ場所に向かう。いつものベンチの前で互いに手を上げ歩み寄る二人。ごめんと軽く頭を下げる修二。二人は毎月最後の水曜に、映画鑑賞をすると約束をしていた。いつもの時間に、いつもの場所で会い、いつもの店に入り映画上映会の前の一時をゆっくりと過ごす。 本日は恋愛映画を二人寄り添いながら観る。暗闇の中で時に離れ、時にひとつになるふたつの影。エンディングの余韻に浸る事なく映画館を後にする。夕食を兼た映画批評を論じあい、再び充実した一時を過ごす。映画の続きを奏でるように二人は再び寄り添い、修二の家路をゆったりとした足取りで進む。部屋に入りシャワーの音の後、間もなく消される明かり。窓の隙間から風になびくカーテン。それと共に微かに聞こえる重なるふたつの吐息。それは次第に確かな喘ぎへと変わってゆく。確かな幸福がそこにある。 空が白んで、また今日が始まる。修二に見送られドアを背に歩き出す。少しだけしわのついたスカート、指櫛で整えられるセミロングの髪が風になびき、その瞬間ふと振り返る彼女。そう、修二の彼女。彼女と目が合った。私は笑った。
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