子供のセカイ。240
覚悟ならすでに固めた。姉と幼なじみの耕太を捕まえ、舞子は覇王やラドラス以下囚人たちを従え、“真セカイ”に入る。
そして悲願の達成を――。
「……」
舞子は、ふと考えた。
――お母さんは、こんなことをして本当に喜んでくれるのだろうか?
その問い掛けの持つ恐ろしい破壊力が、舞子の胸を容赦なくえぐった。
「――違う!」
舞子は声を張り上げた。ぎゅうっと絨毯に両の指を食い込ませた時、バタン、とドアが開く音と共に、夜羽部隊の一員、アリアが部屋に飛び込んできた。
「どうかされましたか?」
「アリア…!」
座り込む舞子の傍らに、アリアはさっとひざまずいた。その冷静な表情を眺めている内に、息を荒げる舞子の大きな瞳に、大粒の涙が浮き上がった。
いきなり、舞子は勢いよくアリアに抱き着いた。そしてはばかることなく、大声を出してさめざめと泣き始めた。
アリアは石のような無表情に、ほんの少しの不安の色を漂わせて、舞子の髪を撫でた。幼子のように首に腕を回す少女の身体は、驚くほど薄く、小さかった。
舞子は気の済むまで泣き続け、アリアは何も言わなかった。
――舞子は気づかなかった。そうして舞子を慰めるアリアの姿が、頼れる姉の姿と酷似していることに。
そしてそれにも関わらず、舞子の胸の奥底には、やはり美香に対する暗い感情が激しく渦巻いていた。
*****************
曇りガラスを使っているポストの中に、白いものが見えた。美香は一瞬顔を強張らせると、蓋を開け、丸まった一枚の紙を取り出す。
『本日正午、決行』
達筆な字でそれだけが書かれている手紙は、いかにもミルバらしかった。
美香は大きく息を吸って吐く。
美しい少女の硬質な瞳は、決意というより厳しさと諦めを刻んでいた。
迷いは消えない。断ち切ることなどできない。
そして、もう説得などという生温い手段ではどうにもならないところへ来ているのかもしれない。
(舞子……)
美香には舞子が理解できなくなっていた。幼さを理由に許容されてきた舞子の我が儘は、すでに子供の持つ無邪気なそれとは、かけ離れたところに来てしまった。
だが美香には、言葉以外に舞子を繋ぎ止める手段はない。
ミルバが舞子を殺すという判断を下す前に、舞子の心を変えさせること。それができなければ、美香にその先の未来はなかった。
そして悲願の達成を――。
「……」
舞子は、ふと考えた。
――お母さんは、こんなことをして本当に喜んでくれるのだろうか?
その問い掛けの持つ恐ろしい破壊力が、舞子の胸を容赦なくえぐった。
「――違う!」
舞子は声を張り上げた。ぎゅうっと絨毯に両の指を食い込ませた時、バタン、とドアが開く音と共に、夜羽部隊の一員、アリアが部屋に飛び込んできた。
「どうかされましたか?」
「アリア…!」
座り込む舞子の傍らに、アリアはさっとひざまずいた。その冷静な表情を眺めている内に、息を荒げる舞子の大きな瞳に、大粒の涙が浮き上がった。
いきなり、舞子は勢いよくアリアに抱き着いた。そしてはばかることなく、大声を出してさめざめと泣き始めた。
アリアは石のような無表情に、ほんの少しの不安の色を漂わせて、舞子の髪を撫でた。幼子のように首に腕を回す少女の身体は、驚くほど薄く、小さかった。
舞子は気の済むまで泣き続け、アリアは何も言わなかった。
――舞子は気づかなかった。そうして舞子を慰めるアリアの姿が、頼れる姉の姿と酷似していることに。
そしてそれにも関わらず、舞子の胸の奥底には、やはり美香に対する暗い感情が激しく渦巻いていた。
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曇りガラスを使っているポストの中に、白いものが見えた。美香は一瞬顔を強張らせると、蓋を開け、丸まった一枚の紙を取り出す。
『本日正午、決行』
達筆な字でそれだけが書かれている手紙は、いかにもミルバらしかった。
美香は大きく息を吸って吐く。
美しい少女の硬質な瞳は、決意というより厳しさと諦めを刻んでいた。
迷いは消えない。断ち切ることなどできない。
そして、もう説得などという生温い手段ではどうにもならないところへ来ているのかもしれない。
(舞子……)
美香には舞子が理解できなくなっていた。幼さを理由に許容されてきた舞子の我が儘は、すでに子供の持つ無邪気なそれとは、かけ離れたところに来てしまった。
だが美香には、言葉以外に舞子を繋ぎ止める手段はない。
ミルバが舞子を殺すという判断を下す前に、舞子の心を変えさせること。それができなければ、美香にその先の未来はなかった。
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