振り返るなよ
ドライブに出掛けた先で、長いトンネルに捕まった。
このトンネルの事は聞いたことがある。
輪廻隧道
地元の人は、そう呼ぶらしい。
何故かは知らない。知る気もない。俺はそう言ったオカルト的な事は信用しない人間だからだ。
それにしても、走ってるのに同じ景色が続く上に、対向車も皆無。息が詰まりそうな閉塞感。
不気味な静寂。
あまりの長さで頭がおかしくなりそうだった。
突然、周囲が閃光に包まれた。
一瞬何も見えなくなったが、すぐに元に戻った。
何だ? 今の
辺りを気にしながらも、運転に集中しようとすると、道路の真ん中の何かに気づいた。
さらに近づくと、それがハッキリと形を成し、俺を驚かせた。
人だ。人が倒れているのだ。
急いで車を止めて降りた。
うつ伏せに倒れているが、どうやら男のようだ。頭から血を流している。
俺は彼に近寄り、身体を揺さぶった。
「おい! 大丈夫か! 何があった!」
反応がない。
俺は彼の手首をとった。
脈はまだある。
ケータイを取り出したが、圏外だった。
「くそっ!」
流れ出る血に気分が悪くなり、なるべく視界に入らないように彼を車に乗せ、トンネルの出口に急いだ。
少しばかり走ると、白い靄が立ち込め始めた。不思議に思いながらもさらに走り続けると、奥の方でぼんやり赤い光が見えた。
「何だ? あれ」
その直後に、後ろから声をかけられた。
「絶対振り返るなよ」
聞き覚えのある声。
俺だ。俺の声だ。
俺は思わず振り返った。
男の顔がハッキリ見えた。
後部座席にいたのは紛れもない俺だった。
少しの間、衝撃を隠せなかったが、突然ハッと我に返った。
前に向き直ると、眼前で燃え上がる夥しい量の車。
「うわあああっ!」
急ハンドルを切り、思いきりブレーキを踏む。が、遅かった。
直後に衝撃が身体を貫いた。
奇跡的だった。あれだけの事故にも関わらず、頭を打っただけだったのだから。
しかし、この車にも火が燃え移っていた。
急いで逃げないと!
俺は、転げ落ちるように車から降り、出血している頭部を押さえながら歩き出した。
トンネルの先は、火と充満する煙で進めそうにない。
引き返すしかなかった。
しかし、予想以上に出血が激しかったようだ。
朦朧とし始める意識。
途中からは、ほとんど無意識だったに違いない。
ただ、歩けなくなって、前に倒れ込んだことは覚えていた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
戻っては薄れゆく意識の中、遠くで車のエンジン音が聞こえた。
次第に大きくなる音。
それは俺の近くで止まった。
ドアが開く。反響する足音。
安堵した俺の意識は遠ざかっていった。
再び目を覚ました俺は、車の中にいた。どうやら、助けてくれたようだ。これで安心だ。
しかし何かが変だった。
この空間……。
違和感は次第に形を成し、俺の頭にある予感が浮かんだ。
ルームミラー越しに運転席を覗き込む。
俺がいた。やっぱりだ。運転している。
悪い予感は的中した。
この後、この俺は事故を起こす。確か、後ろを向いたのが原因なのだが……。
頭を打ったせいか、なぜ後ろを向いたのか思い出せなかった。
とにかく注意しなければ。
「何だ? あれ」
運転席の俺がキョトンとした声を出す。その刹那、俺は言った。
「絶対振り返るなよ」
このトンネルの事は聞いたことがある。
輪廻隧道
地元の人は、そう呼ぶらしい。
何故かは知らない。知る気もない。俺はそう言ったオカルト的な事は信用しない人間だからだ。
それにしても、走ってるのに同じ景色が続く上に、対向車も皆無。息が詰まりそうな閉塞感。
不気味な静寂。
あまりの長さで頭がおかしくなりそうだった。
突然、周囲が閃光に包まれた。
一瞬何も見えなくなったが、すぐに元に戻った。
何だ? 今の
辺りを気にしながらも、運転に集中しようとすると、道路の真ん中の何かに気づいた。
さらに近づくと、それがハッキリと形を成し、俺を驚かせた。
人だ。人が倒れているのだ。
急いで車を止めて降りた。
うつ伏せに倒れているが、どうやら男のようだ。頭から血を流している。
俺は彼に近寄り、身体を揺さぶった。
「おい! 大丈夫か! 何があった!」
反応がない。
俺は彼の手首をとった。
脈はまだある。
ケータイを取り出したが、圏外だった。
「くそっ!」
流れ出る血に気分が悪くなり、なるべく視界に入らないように彼を車に乗せ、トンネルの出口に急いだ。
少しばかり走ると、白い靄が立ち込め始めた。不思議に思いながらもさらに走り続けると、奥の方でぼんやり赤い光が見えた。
「何だ? あれ」
その直後に、後ろから声をかけられた。
「絶対振り返るなよ」
聞き覚えのある声。
俺だ。俺の声だ。
俺は思わず振り返った。
男の顔がハッキリ見えた。
後部座席にいたのは紛れもない俺だった。
少しの間、衝撃を隠せなかったが、突然ハッと我に返った。
前に向き直ると、眼前で燃え上がる夥しい量の車。
「うわあああっ!」
急ハンドルを切り、思いきりブレーキを踏む。が、遅かった。
直後に衝撃が身体を貫いた。
奇跡的だった。あれだけの事故にも関わらず、頭を打っただけだったのだから。
しかし、この車にも火が燃え移っていた。
急いで逃げないと!
俺は、転げ落ちるように車から降り、出血している頭部を押さえながら歩き出した。
トンネルの先は、火と充満する煙で進めそうにない。
引き返すしかなかった。
しかし、予想以上に出血が激しかったようだ。
朦朧とし始める意識。
途中からは、ほとんど無意識だったに違いない。
ただ、歩けなくなって、前に倒れ込んだことは覚えていた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
戻っては薄れゆく意識の中、遠くで車のエンジン音が聞こえた。
次第に大きくなる音。
それは俺の近くで止まった。
ドアが開く。反響する足音。
安堵した俺の意識は遠ざかっていった。
再び目を覚ました俺は、車の中にいた。どうやら、助けてくれたようだ。これで安心だ。
しかし何かが変だった。
この空間……。
違和感は次第に形を成し、俺の頭にある予感が浮かんだ。
ルームミラー越しに運転席を覗き込む。
俺がいた。やっぱりだ。運転している。
悪い予感は的中した。
この後、この俺は事故を起こす。確か、後ろを向いたのが原因なのだが……。
頭を打ったせいか、なぜ後ろを向いたのか思い出せなかった。
とにかく注意しなければ。
「何だ? あれ」
運転席の俺がキョトンとした声を出す。その刹那、俺は言った。
「絶対振り返るなよ」
感想
- 41142:面白かったです![2011-06-05]
- 41143:この話聞いたことあります[2011-06-05]