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最後の夏休み13

[344] ホッチキス 2011-06-07投稿
「いや、やるねぇ。」

手を叩きながら池見が近づいてきた。

「いやいや、まさか1日で成果を出すとはな。たいしたもんさ。」

池見はそういって戒に笑いかけた。

「あ、ありがと…」

戒は少し照れくさそうに池見の視線をそらした。

「いや、実際にお礼を言いたいのはこっちの方さ。ありがとう、戒くん。」

そういって所長は戒に頭を下げた。

「いや、そんな所長さんにお礼を言われるなんて」

そう言い掛けたところで戒の膝がガクンと折れる。

身体が石の重たく硬く動かなくなってくる。
全身から汗が吹き出てくる。
今まで感じたことのない疲労感が戒を襲ってくる。

戒は立っていることも出来ず、この場でひざをついた。
「あはは、やっぱり疲れちゃってたか。池見、戒くんを家まで送ってあげてくれ。」

「わかった。」
そういって池見は戒を背中におぶった。

「ああ、戒くん。大事なことを言うのを忘れてたよ。」

所長は今まで基本的に締まりのない顔をしていたが、今は真剣な眼差しを戒に向けていた。

「その魔法の力は決して人前では使わないでほしいんだ。」

「はっ?」

衝撃的な言葉だった。
魔法を人前で使わないでほしい?
今はこんなちっぽけな魔法だが、この先もっと凄い力が手に入るだろう。
そのとき誰にもそれを見せられず、誰にも認めてもらえない。
それなら魔法を使えないのと同じでは?

「ああ、ごめん。誤解を招く言い方だったね。魔法を使わないでほしいのはずっとじゃなくて、僕たちの研究が完成するまでさ。」

「研究っていつ完成ですか。」

戒は不機嫌そうだった。

「研究は結構な段階まで進んでるからね。君が高校生の間には終わるよ。だからそんな怒らないでくれ。」

「別に怒ってなんかいませんよ。ただ、説明が足りなかったんじゃないかと思っただけです。」

「まあ、まあ、今日は疲れているし、その話はまた今度でしよう。」

池見はそういって戒をおぶったまま研究室を後にした。

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