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天使のすむ湖49

[314]  雪美  2006-09-11投稿
入院については、しないことを約束して、何度も俺は謝った。お詫びに、寂しがる香里のために、一階のリビングの横の部屋を、ソファーなどがあったのをどかして、ベットを運んで寝室に模様替えをした。ここならば何をしていても話し声も聞こえるし、寂しくないだろうと思ったからだ。
それだけではなく、寝室から見える木に小さな小鳥の巣箱を置いて、餌場を作った。一時間ほどすると、小鳥がチュンチュンと鳴いて、よって来た。
「みてみて、あれスズメよねー」
と香里は、はじめてみた子供みたいに、目を輝かせていた。
俺は大木先生の、視力も次第に落ちていくと言われたことを思い出して、胸が締め付けられる気がしていた。

一階の寝室になって六月には、また俺の肖像画の続きに取り掛かり、キャンバスに向かうことが出来るまでになっていた。
月一回たずねてくれている、催眠療法の柏原先生には
「アニマルセラピーですか、いいことを思いつきましたねー」
とお褒めの言葉をいただいた。
毎朝餌場にえさをやるのは俺の仕事なのだが、香里の喜ぶ顔を見ると苦にはならなかった。
鳥たちも何羽か入れ替わり立ち代り来ていて、いつも小鳥の鳴き声が聞こえるようになっていた。それだけで、人は癒されることがあることを知った。
動物などとふれあい、癒されることをアニマルセラピーと言うらしいこともはじめて知った。
主治医の大木先生からは、聴覚だけは最後まで残る可能性があると知らされていた。
視覚も言語も失われても、聴覚だけは聞くことだけは最後まで残るかもしれない、わずかな希望にかけた結果だった。
人は一人では生きてはいけない、誰かと誰かが助け合って互いに生かされている。それを今は身近に感じていた。
楽しそうに肖像画を描く香里が、鼻歌交じりで、とても重病には今は見えなかった。その見事な色使いは、父から受け継いだ天才的遺伝子なのだろうか、柔らかな光を巧みに取り入れていた。
再び絵筆を握った香里は、生き生きとして一番輝く時を、もう少しこのままでいてほしいと俺は願っていた。神様に心の中で手を合わせていた。

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