空から見てる 4
「一人でこんな山奥に住んでいて、寂しくないですか?」
これを聞いた後で、しまった、と俺は思った。
サエさんは一瞬目を見開いたあと、眉をひそめた。
さっきまであんなに穏やかだった顔が、不快に歪んだ。
「ウチは、好きで一人になったんじゃない。」
サエさんは低い声で言った。
「すみません、俺、無神経でした。ごめんなさい。」
「…いいの。
一番ひどいのは、あたしの両親だから。
ほんとにずっと、帰って来ないのよ。ウチを一人きり残して。」
「え?帰って来ないって…?」
(俺はてっきり亡くなったものだとばかり)
「3年以上前にね、母と父で、出掛けてくるって言ったっきり。」
「そうなんですか…。それは、どこへ出掛けたとか、何か聞いてたんですか?」
「えぇ、それがね…、『曇の道の果てを見てくる』って。」
「くものみち?」
「別名は阿曇山道。」
「あずみさんどう…それは一体…」
「終りが無いと言われてる山道よ。でもただの迷信。地図にだってちゃんと書かれてるし。
ただ、いつも濃い霧が出ていて、すごく見通しが悪い道。どこまでも登っていくような錯覚に陥る坂道で、車の事故も多いの。」
感想
感想はありません。