奈央と出会えたから。<431>
* * * * * *
お正月の朝は、
あたしは結構好きだ。
得に元旦の朝は。
新しい年の始まりだから、
新鮮な気持ちになれる。
そんな気がして。
『奈央。起きてるの?いつまで寝てるの、もうお昼よ。
年賀状届いてるわよ。』
階下で母の声がする。
この声を聞いた途端、
いつもと変わり無く、
今年も繰り返される毎日に、
ふと気付かされる。
『はぁい。もう起きてるわよ。』
本当は今起きたばかりだケド。
階下を下りて行くトキ、
ぷぅんといい香りがした。
煮物のお出しの匂いかな。
『お雑煮と旨煮が出来てるけど、食べるでしょ?』
『うん。』
あたしが食卓のイスに座ると、
母は、暖かいお雑煮と旨煮を出してくれた。
『どう?旨煮は鶏肉 いっぱい入れておいたわよ。
あなたのリクエスト通り。』
『あは。ありがとうお母さん。美味しいわよ。』
旨煮も美味しいケド、
母と一緒に過ごせるこの時間が、
あたしは一番大好きなんだ。
『奈央。はいお年玉。普段のお小遣いが少ない分、奮発しといたわよ。』
母は、そう言ってあたしにミッフィーの絵が付いたポチ袋をくれた。
『わぁ。お母さんてば。いいよ、こんなにたくさん。
あたしは普段、必要な物は買ってもらってるし。』
中には、壱万円札が一枚入っていた。
お母さんが昼も夜も働いて稼いだお金。
『いいから取っておきなさい。
奈央には普段、色々家事を手伝ってもらってるから、お母さん感謝してるのよ。』
『そんなの当たり前じゃん。
お母さん、ふらふらになりながら、あたしの為に働いてくれてるじゃん。
家事くらい手伝わせてよ。』
少しムキになって話すあたしに、
母は少し笑ってこう言った。
『まだ中学生なんだから、素直に甘えてなさい。
ほら、お雑煮冷めちゃうわよ。』
その後に返す言葉は、
あたしの口からは出て来なかった。
お母さんのお雑煮と旨煮が、とても美味しかったのと、
お母さんの言葉が、とても心に響いたのとで、
涙が出そうになったから。
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