雨の庭先
雨のにおいを含んだ空気が店内に入ってきた。ジョーカーがエントランスをチラリと見やった。
「待っていたよ、雨男」
純麗はジョーカーを膝から降ろし、カウチから立ち上がった。
「やあ、よく降るね」
ブーツの爪先をトントン、と鳴らしマットの上に黒く模様を浮かびあがらせる。ウエストから提げたシザーバッグの露を払うと雨宮はステップを降りて純麗の傍に立ち髪に手を伸ばした。
「ちょっと伸びたでしょう?」
「頃合いだったね」
体を反転させ、純麗はサラサラと雨宮の指先から髪を逃れさせる。
純麗を追ってベランダに出ると、いつものように丸椅子が用意されていて、腰掛けた純麗が雨宮を振り仰ぐ。
「始めようか」
少しひんやりした指先が純麗の頭を撫でた。
一房ずつ毛先をブラッシングしていく。時折、指先が肩胛骨を触れる。純麗は背筋をピンとして座る。
シャン、シャン、シャン、と雨宮はハサミを入れる。安定したリズムが心地よい。
ハサミを動かしている様子を純麗は見たことがない。見てみたいとは思うが、雨宮が他人の髪に触れるのは不快なので純麗は思考を打ち切り、目を瞑ってじっと雨音に耳を傾ける。
「お疲れさま」
振り向くと雨宮は膝を折り、髪の一房にキスをしていた。髪が綺麗に伸びる「まじない」だそうだ。
「純麗、花の匂いがする」「雨のせいだろう」
花水木の木の傍で沈丁花が香っている。雨に霞んで花の色は夢のように白かった。
純麗は雨宮の手を取ると指先にキスを返した。
部屋の中でジョーカーが控え目に鳴いた。
「待っていたよ、雨男」
純麗はジョーカーを膝から降ろし、カウチから立ち上がった。
「やあ、よく降るね」
ブーツの爪先をトントン、と鳴らしマットの上に黒く模様を浮かびあがらせる。ウエストから提げたシザーバッグの露を払うと雨宮はステップを降りて純麗の傍に立ち髪に手を伸ばした。
「ちょっと伸びたでしょう?」
「頃合いだったね」
体を反転させ、純麗はサラサラと雨宮の指先から髪を逃れさせる。
純麗を追ってベランダに出ると、いつものように丸椅子が用意されていて、腰掛けた純麗が雨宮を振り仰ぐ。
「始めようか」
少しひんやりした指先が純麗の頭を撫でた。
一房ずつ毛先をブラッシングしていく。時折、指先が肩胛骨を触れる。純麗は背筋をピンとして座る。
シャン、シャン、シャン、と雨宮はハサミを入れる。安定したリズムが心地よい。
ハサミを動かしている様子を純麗は見たことがない。見てみたいとは思うが、雨宮が他人の髪に触れるのは不快なので純麗は思考を打ち切り、目を瞑ってじっと雨音に耳を傾ける。
「お疲れさま」
振り向くと雨宮は膝を折り、髪の一房にキスをしていた。髪が綺麗に伸びる「まじない」だそうだ。
「純麗、花の匂いがする」「雨のせいだろう」
花水木の木の傍で沈丁花が香っている。雨に霞んで花の色は夢のように白かった。
純麗は雨宮の手を取ると指先にキスを返した。
部屋の中でジョーカーが控え目に鳴いた。
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