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流狼-時の彷徨い人-No.72

[621] 水無月密 2011-07-24投稿
 ノアはこれを好機と受け取っていた。

 どうやら段蔵は、半次郎の中にひそむ無限の可能性に興味をもったようである。
 今殺すには惜しいと考えているのであれば、この男との闘いは半次郎にとってまたとない経験になる。
 ノアはそう判断していた。


「……よかろう。
 だが、キサマの剣が邪な気をはなった瞬間、ワタシの剣がその身体を貫くと心しておけ」
 剣を納めるノア。
 だが、その身体からオーヴが消える事はない。


 ノアの牽制を鼻であしらった段蔵も、同じように剣を納めていた。

 剣を握りしめる半次郎は、その動作の意味を即座に理解していた。
 それが、現時点での自分と段蔵との実力差なのだと。

「……いくぞ」
 段蔵のつげた言葉を耳にしたのと同時に、半次郎は右の傍らに一陣の風が擦り抜けるのを感じた。

 即座に反応して振り返る半次郎。
 だが、その途上で腹部にはしった激痛に耐え切れず、片膝をついた。


「何だ、もう終りか?
 俺はすれ違いざまに拳をあてただけだぜ」
 見下ろす段蔵の言葉に、すぐさま立ち上がり身構える半次郎。

『速い、眼では到底追いきれない。
 ……ならば』
 手にする剣を静かに地へ置くと、半次郎は目をとじて自然体にたたずんだ。

 そして、研ぎ澄まされた彼のサイレントオーヴが、彼の周囲に張り巡らされる。



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