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最後の夏休み30

[334] ホッチキス 2011-08-19投稿
「ない!ない!」
今までどんなに酷い仕打ちを受けていても全く動じない葵だったが、今回ばかりは泣きそうな表情で探していた。

葵はあの事件で亡くなった両親からもらった指輪をキーホルダーと一緒に学校の鞄に付けていた。
しかし学校の帰りにそれをいじめをしてる連中に取られ、投げ捨てられたのである。
捨てた奴らはみんな戒にぶちのめされたのだが、そんなことをしても指輪は返ってくるわけはなく二人で必死に探している。

「どこにも…ない…。」
日が沈みはじめ、空が夕暮れに染まるころ必死に探していた葵の足がとうとう止まった。
うつむき諦めたような表情をしていた。

そんな葵に苛ついたのか戒は厳しい表情で言い放った。
「はあ?なんで諦めてんだよ。おじさんとおばさんからもらったもんなんだろ。大事なものなら、ないとかじゃなくてとにかく見つけるまで探すんだよ。」
戒はそう言うと諦めるどころかより一層勢いよく辺りを探す。
葵はしばらく戒のほうを見て立ち尽くしていたが、再び探し始めた。

「あっ…」
日も完全に沈み、辺りが暗くなって頃、指輪はやっと見付かった。変わり果てた姿で…。
葵は二つに割れた指輪を手に取り、静かに涙を流し震えていた。
そんな葵を悲しい表情で戒は見つめていた。

次の日何もなかったようにいつも通り葵は無表情であった。
だが、戒にはなんだか元気がないように思えた。

戒は今まで貯めた小遣いとお年玉、そして妹の明にお金を借りて、今買うことの出来る精一杯似てる指輪を買った。
そんなものでは形見の変わりにはならないことは分かっていたが、少しでも葵に元気を出して欲しかった。

学校の帰り道戒は葵にそれを渡した。
葵は少し、驚いた様子で戒からもらったその箱を開けた。
「こんなもんじゃ、変わりにはなんねぇと思うけどよ。できるだけ、似たの買ったんだ。だからさ、元気だせよ。」
戒は恥ずかしそうに頬をかきながら斜め上を向いてそう言った。

葵は指に指輪をはめようとするが少しサイズが大きくてぶかぶかだった。

「悪い!出来るだけ似てるのしか考えてなくてサイズまで気が回らなかった。買ったとこにもう少し小さいやつと取り替えてもらえるように言ってみる。」

戒は慌てて葵の指輪を取り替えてもらえるように指輪を持って行こうとしたが、葵は指輪を大事そうに抱えて首を横振った。

「これでいい…。」
葵をそう小さく呟き、顔を赤くしていた。
そして、
「ありがとう、戒。」
笑った顔で戒にお礼を言った。

………
……


「はっ!!」
戒が気が付くと見慣れないベッドの上にいた。
しばらく気を失っていたらしい。

夢をみた。
葵と仲違いする少し前の夢だった。

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