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子供のセカイ。254

[290] アンヌ 2011-08-26投稿
美香は言葉を選びながら答えた。
「わからないけど、覇王のことだから、せっかく捕らえた前支配者を逃がすような手は避けると思うの。もし万が一ミルバが逃げた時、普段いる場所のすぐ階下なら、簡単に捕まえられるでしょう?」
耕太はしばし首を捻って考えていたが、やがて一つ大きく頷いた。
「わかった。地下は俺がちゃっちゃと調べてきてやる。一階はお前に任せるから、二階に上がる階段の前で集合な!」
自信満々な耕太の様子に、美香は面食らって目を白黒させた。
「でも、地下が何階あるかもわからないのに……どうする気なの?」
「こうするんだよっ!」
耕太はくるりと身体を回転させた。乙女の姿ではまるで舞曲を舞うように美しい動きだったが、耕太の顔が正面に戻るか戻らないかというところで、その姿は一瞬にして掻き消えてしまう。
「!?」
美香は思わず両手を前に構えて飛びすさった。ぶわりと巻き起こった風から、反射的に攻撃を連想したためだった。
だが、途端に辺りはしん、と静まり返り、美香は薄暗いホールの中、たった一人で立ち尽くす。そこにはすでに、誰の気配も残されていなかった。
「そっか…!」
美香はハッと耕太の意図に気づくと、今度は素早く身を翻し、一階の居室が並ぶ通路に向かって駆け出した。
恐らく、耕太は風になったのだ。それで兵たちの目をかい潜り、一瞬にして地下中を駆け巡って、ミルバの存在の有無を確かめる気なのだろう。
(最初から二人で風に変身しておけば……いえ、ダメね。自分自身が変わるのはいいけど、他人が風になるところを想像するなんて難しいもの)
どのみち、過ぎたことである。美香は頭を振って雑念を払うと、見えてきた一階通路へ続く階段を駆け上がった。
そこはやはり予想通り、よくわからない構造になっていた。左右に伸びる通路には薄いピンク色の絨毯が敷き詰められており、足元がやわらかく沈み込む。緩やかにカーブを描く通路はまるで高級ホテルの様相で、白木に金色の幾何学模様が刻まれたドアがずらりと並んでいた。
「これ、全部見るのね……」
思わず美香は挫けかけたが、その時、名案を思い付いた。
少しだけ躊躇ったが、ここでグズグズしている暇はない。今こうしている瞬間にも、美香たちを守り、ここまで導いてくれたミルバの分身は、死を覚悟で覇王を足止めしてくれているのだ。

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