幻想怪奇談 短編
私の友達のA子は、非常にやっかいな人で、ことあるごとに「霊」の話をしては周りから引かれていた
自称「霊感体質」なんだという。
しかしいい年をして未だにそんなことを言ってるなんて確かにマトモじゃない
でも私自身、あまり人と巧くいかないこともあってマンションで仲良くしているのはA子と他、数人しかいなかった。
この日もA子をお茶に招いたのだが、なにがなし彼女は落ち着きがなかった。
「どうしたのよ?」
「え、うん…ね、話ってなあに?」
冷たいレモンティーの氷をマドラーでからから掻き回しながらA子が訪ねる。
普段、あまり見せないおどおどとした表情に興味をひかれた。
「それより…なんかおかしいわ、どうしたの」
A子は私を見つめ、急に目を大きくみはった。
ぶるぶる震えている。
今にも叫び出しそうに口を抑え、私の背後を見つめていた。
まさか、お得意の「霊」でも見えたのか…?
「ねえ、言いなさいってば…なんか見えたの?」
A子は、その言葉に跳ねるように立ち上がり、蒼白な顔で私を見返した。
何が見えてるのだろう? 本当に、そんな力が彼女にあるなら是非知りたい。
知らなくちゃいけない。
「ねえ、まさか、うちに何かいるの?」
A子は、「ヒッ」と小さく呻いて私から離れた。
ちょっと冗談でしょ?
一歩、彼女に近づくと、目を見開いて彼女は後ずさる
「なんてことを」
彼女は、それだけ言って私に背を向けて逃げようとした。
お馬鹿さん
私は自分のジーンズからベルトを引き抜くと、素早く彼女の首にかけて自由を奪った。
「ねえ、何を見たの?」
ベルトを締め上げ、耳元で囁く。
彼女は、開け放っていた和室を苦しげに指差した。
そこに置かれたキャリーを指差した。
私は、痺れるような喜びを感じた。
まさか、本当にそんなことってあるのね?
それから私は彼女を、夫と同じように処理した。
彼女が今日うちに来ることは誰も知らないし、「誰にも知られたくない話をしたいから見られないように家に来て」
と誘ったのだから、大丈夫だろう。
バラバラにするのは力仕事だけれど、昨日よりははかどった。
二人目だからコツを掴んだのかも。
それにしても
A子は私が、私の夫との浮気に気づいたのだと思っただろう。
実際私は、夫がA子と浮気をしていたことは知っていた。
…
A子は、一体どんな姿の夫を見たのだろう?
A子の見た存在は、生前の夫の姿なのかしら?
それともパズルみたいに部品ごとに別れていたのかしら?
私は笑った。
後者なら、面白いわ
いまやこの部屋には死者が二人もいる。
夫は細切れにされながらも、A子を助けようとしたんだろうか?
私の笑いはさらに大きくなった。
おかしいったらないわ、なぜ人は幽霊なんか怖がるのかしら?
なにができるというの?
なにも出来やしないじゃないの…
私は綺麗に後片付けをして二つに増えたキャリーを並べた。
とりあえず、お腹も空いたことだし
夕飯にしましょう。
幽霊どもの声なき悲鳴や、慟哭が聞けたら
もう少し楽しいでしょうに
私は冷蔵庫をあけながら、そんなことを考えていた
完
感想
- 41568:コレはまだオモロイ[2011-09-24]
- 41612:なんなのコイツ↓同じ人に連コメうざい。面白く読んでるのに冷める。きえろ。[2011-10-23]