子供のセカイ。263
ミルバは蒼い石でできた机に腰掛け、床から伸びる長い鎖で四肢を繋がれていた。
そして子供の周りには、幾千冊もの本が洪水のように溢れ、ひしめいている。
美香もまた、ぽかんと口を開けたまま、動きを止めてしまった。
「……お前、何やってんだ?」
ようやく出たらしい耕太の声は呆れ返っていて、対するミルバは、今しがた読んでいたであろう厚い本をパタンと閉じて平然と返した。
「何って、見ればわかるだろう?ここに閉じ込められ、することもなく暇だから、ずっと本を読んでいたんだ」
「それが救出を待つ奴の態度かよ?」
耕太は露骨に嫌な顔をしたが、ミルバは動じる様子もない。
それどころか、鎖をジャラジャラ鳴らしながら緑の短髪をかきあげると、やれやれというように溜め息をついた。
「君は思ったより馬鹿だな。外部から情報を得られないなら、既存の知識だけでも暇な内に吸収しておく。この上なく合理的だと思うけどね」
「美香、どうする?助けるのやめるか?こいつ今までのミルバの中で一番性格悪いぞ」
耕太は心底うんざりしたように吐き捨て、美香もまた唸ってしまった。確かに、耕太の気持ちもわからなくはない。今の今まで、ミルバ救出のために戦っていたことを考えると、ミルバの態度はあんまりである。
「……仕方ないわ。私たちにはミルバの力が必要だもの」
しかし美香はあっさりと結論を出すと、耕太より先にいびつに開いた穴から、部屋の中へと足を踏み入れた。
耕太もがしがしと頭をかくと、渋々それに続く。
本の山をまたぎまたぎしてミルバの座る机にたどり着いた美香は、頑丈そうな鈍色の鎖を見て、顔をしかめた。
「どうすれば鎖をほどけるかしら?」
「それについては、一つ考えがある。まずは君が鎖を押さえて――」
言いかけたミルバは、ふと口をつぐみ、それからにぃ、と笑った。視線は穴を突き抜けた部屋の外に向いており、美香と耕太は、互いにハッとしてそちらを振り返る。
群れを成す氷の彫像の狭間に、いつの間にか黒衣の軽装に身を包んだ人物が三人、音もなく立ち尽くしていた。
美香は急激な寒気に襲われた。その光景を目にしただけで、ぞわりと鳥肌が立つほどの恐怖を与える人物――それは、夜羽部隊の女たちだった。
無機質な赤い瞳が、標的を捉えた機械のレンズように、瞬き一つせず美香たちを凝視している。
そして子供の周りには、幾千冊もの本が洪水のように溢れ、ひしめいている。
美香もまた、ぽかんと口を開けたまま、動きを止めてしまった。
「……お前、何やってんだ?」
ようやく出たらしい耕太の声は呆れ返っていて、対するミルバは、今しがた読んでいたであろう厚い本をパタンと閉じて平然と返した。
「何って、見ればわかるだろう?ここに閉じ込められ、することもなく暇だから、ずっと本を読んでいたんだ」
「それが救出を待つ奴の態度かよ?」
耕太は露骨に嫌な顔をしたが、ミルバは動じる様子もない。
それどころか、鎖をジャラジャラ鳴らしながら緑の短髪をかきあげると、やれやれというように溜め息をついた。
「君は思ったより馬鹿だな。外部から情報を得られないなら、既存の知識だけでも暇な内に吸収しておく。この上なく合理的だと思うけどね」
「美香、どうする?助けるのやめるか?こいつ今までのミルバの中で一番性格悪いぞ」
耕太は心底うんざりしたように吐き捨て、美香もまた唸ってしまった。確かに、耕太の気持ちもわからなくはない。今の今まで、ミルバ救出のために戦っていたことを考えると、ミルバの態度はあんまりである。
「……仕方ないわ。私たちにはミルバの力が必要だもの」
しかし美香はあっさりと結論を出すと、耕太より先にいびつに開いた穴から、部屋の中へと足を踏み入れた。
耕太もがしがしと頭をかくと、渋々それに続く。
本の山をまたぎまたぎしてミルバの座る机にたどり着いた美香は、頑丈そうな鈍色の鎖を見て、顔をしかめた。
「どうすれば鎖をほどけるかしら?」
「それについては、一つ考えがある。まずは君が鎖を押さえて――」
言いかけたミルバは、ふと口をつぐみ、それからにぃ、と笑った。視線は穴を突き抜けた部屋の外に向いており、美香と耕太は、互いにハッとしてそちらを振り返る。
群れを成す氷の彫像の狭間に、いつの間にか黒衣の軽装に身を包んだ人物が三人、音もなく立ち尽くしていた。
美香は急激な寒気に襲われた。その光景を目にしただけで、ぞわりと鳥肌が立つほどの恐怖を与える人物――それは、夜羽部隊の女たちだった。
無機質な赤い瞳が、標的を捉えた機械のレンズように、瞬き一つせず美香たちを凝視している。
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