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忘れ物

[322]  慶衛  2006-09-15投稿
 僕は知らなかった。いや、知っていたのかもしれない。ただ認めたくないだけで、ただ避けていたのかもしれない。
 避けて当然だ。そんなこと、正直に認める人なんて、そうはいない。
 そのはずだ。
 自分の死を認める。そんなこと。しかし僕は認めざるをえなかった。
 それは、一週間前の出来事・・・・・・。

 まだ自分が死んでいることに気付かない僕は、渋谷のハチ公前にいた。
 特別、何か待ち合わせがあったわけではない。そこで人が行き交うのを見ることが好きだった。いわば人間観察だ。
 そんなもののどこが楽しいのか。わかる人は少ないかもしれない。
 しかし人を見ていると、ある人たちは人前で堂々とだきあったり、またある人は、路上ライブを行い、さらには僕のいる場所を待ち合わせに使う人もいる。彼らを見ていると、みなそれぞれ違う生きものに見えてくる。
 僕は死んでいるのだから、当然なのかもしれない。だがこの時はまだ気付いていなかった。

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