幸運の女神-第二部 11
「ジャジャーンッ!クワトロどぇーすっ!
あんなァ、三人しかおらへんのに何でクワトロ(4、の意味)やねんっ!てな突っ込みはナシにしたってな♪」
客席から爆笑とヤジがドッと沸き起こる。
「…あいつら、完っ璧にアホや」
「あはははっ、面白いね〜、あの人達」
「いえ、アホそのままの所が伝統の持味ですよね?彼らは」
にこやかな笑顔で猛毒を吐く峠昭彦が、バンドスコア(譜面)のチェックをする。
年の順に昭彦、俺(倉沢諒司)、石島康介、品川恵利花となるが、普段は俺が諸事をまとめ、昭彦が決定を下す形が多い。
残る二人は、と言うと本能のままにプレイするだけ。
天才って人種はそれで良いと思っているが…
「あーっ、火ぃ吹いてるよ、すっご〜い!」
……実はサーカス団ってか?
「今晩はーっ!僕達ラットラーの芸はこれです。
ワン・トゥ・スリー・フォー!」
昭彦のカウントで“ドカン!”と打ち上げ花火の様に俺たちのプレイが全開スタート。
今夜は取材カメラマンのフラッシュがステージをひとコマずつ刻んでいる。
俺達ラットラーの面々はそれを大して気にも留めず、演奏に入り込んでいった。
やがて『音』と一体になる忘我の瞬間が訪れ、会場にいる全ての者がひとつに溶け合う感覚がやって来た。
「いやぁーっ、君たちプロ目指してるんでしょう?
ほんと、凄いステージ度胸だよねぇ!」
「まぁ…趣味ですね。
仲間内で楽しくやっているのが一番ですよ。 プロは考えてませんから」
「俺も同意見っスね。
芸能界、全くキョーミないし」
「…あ、そう、ふぅ〜ん。それが君たちの本音?
かなり変わってんじゃない?アンタら」
昭彦と俺の返答に、表情をガラッと変えた取材記者の態度が不愉快だった。
「必ず、裏があるデ……」
「おわっ!驚かすなよ翔」
クワトロのボーカルでボケ担当の矢島翔が、いきなりヌッと金色のモヒカンを割り込ませて来たため、一瞬焦る。
いつになく、大真面目な顔の翔であった。
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