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君がいたから?

[326]  MINK  2006-09-18投稿
涙が流れた。
彼の前では出せなかった涙だった。
私は、会社へ行く事を断念して、電話をした。
これまで休んだことのなかった私に会社は「遠慮なく、休みなさい」と言った。必要でないと言われた気がした。
雨はまだやまない。
支度を途中で放棄して、コーヒーを淹れベランダから雨を眺めながらそれを口に運んだ。
七階の私の住むマンションからは私の住む町がよく見えた。
今日は、優しく降る雨に包まれていた。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
コーヒーカップの中が空に近づいた時、玄関のチャイムが鳴った。
ジリリリ…
ここのチャイムは変わった音がした。
私がここのマンションに決めた一つの理由だ。
レトロで可愛い音がした。

「はい」

そう言って、玄関を開けるとそこには見たことも無い男がずぶ濡れに濡れたまま立っていた。
歳は25歳くらいで顔は帽子を深く被っていたので良く分からなかった。
「どちらさまですか?」
「誰っすか?」
その男と私の声が重なった。
「すみません。こちら橘さんのお宅では?」
男は私の目を見ず、ぶっきらぼうに聞いた。
私もぶっきらぼうに右を指で指して、「一つ隣です」と答えた。
男は顔色を一つも変えずに一礼して去って行った。
私は、少し不愉快になりながら部屋に戻った。
少しすると女性の怒る声がした。
「悪いけど、こういう事だから!いい加減ウザイ」
そう言うと同時にドアが勢い良く閉まる音がした。
私は少ししてから、そっと玄関の扉を少しだけ開けた。
「橘さん」の玄関の前でさっきの男が立っていた。
相変わらず濡れたまま、彼女にもキツイ言葉を浴びせられていて可愛そうになり、タオルを一つ持って彼の元へ向かった。
「返さなくていいから、使いなさい」
「聞えましたか…お恥ずかしい」
そう言って男はまた俯いた。
「ごめんなさい。聞くつもりはまったく…」
私も言葉につまり沈黙が続いた。
「取り敢えず使いなさい。風邪を引くし」
そう言って、無理矢理タオルを手に持たせ部屋に戻ろうとした時、帽子で隠した男の頬に涙が流れたのを見てしまった。
私は一つため息を付いて、彼に言った。
「こんなところで泣くって言うのもどうかなぁ。話なら聞くけど」
そう言って、私は自分の部屋に入って行った。


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