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流狼-時の彷徨い人-No.74

[644] 水無月密 2012-08-12投稿
『二、三撃で終わらせるつもりだったが、意外としぶといな。
 だが、こいつに時間をかけすぎるわけにもいかないか……』

 口元をゆがませる段蔵はノアを一瞥した。


 圧倒的な力の差を見せ付けたことで、半次郎が認識する限界値は大きく書き換えられたはずである。

 あとは放っておいても、この青年は勝手に強くなるであろう。


 これより先の戦闘に意味がなくなった今、段蔵の興味は本来の標的であったノアへと、矛先を戻しはじめていた。



 予備動作を必要としない段蔵の動きが、瞬時に半次郎との距離をつめる。

 そしてはなたれた掌底が、半次郎の頭部を急襲する。


 いかに半次郎が打たれ強くても、意識を断てばそれ以上の戦闘は無理である。

 幾千もの戦場を渡り歩いた段蔵には、如何なる相手にも対応できる経験値があった。



 閃光の如き掌底が放たれる中、半次郎は目をとじたまま動く気配すらみせない。

 勝敗の帰趨は決した。

 少なくとも傍からこの闘いを見守っていたノアの眼には、そう映っていた。


 だが攻撃を仕掛けた段蔵は、その刹那に半次郎がはなつオーヴの僅かな変化に気づいていた。

 その一部が、外ではなく半次郎の内に働き掛けている事に。



 そして、掌底を放ったその腕を、半次郎の右手が無造作につかみとめる。



 段蔵の身体に戦慄がはしる。

 彼にとっては随分と久しい感覚であったが、それによって彼が動きを制約される事はなかった。


 反撃されるよりも早く手を振りほどくと、段蔵は後方に飛びのいて距離をとった。


 その動きに、半次郎が即応する。


 段蔵との距離をたもったまま移動した半次郎は、死角をつくべく段蔵の膝元に潜り込んだ。

 そして、段蔵の顎をまとに拳を突き上げる。


 これを難無く受け止めると、段蔵は右膝で半次郎を弾き飛ばした。


 段蔵の攻撃にあわせて身体を浮かせた半次郎だったが、その威力を完全に無効化することはできず、たまらず地に手をつけた。



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